And But Cause I love you


[ν]-εγλ 0001/07/02 18:09:22

形ある物はいつか滅びる
知っていた。嫌というほど知っていた
嫌と感じなくなる程に



***



「なぁセフィロス」
「………………なんだ」
「こんくらいじゃ死なねぇって」
「………………」
「つーかお前にフルケアかけて貰って怪我は全部治ってるし」
「………………」
「大丈夫だって」
「………………」

やれやれ。この台詞も何回繰り返したことやら。本当は「だからその握りしめてる俺の左手を離せつーか正直結構痛い」と続けたい所だがそうもいかないだろう。心配させたのはこっちだ。
ガタガタと揺れるトラクター。震動。慣れた筈のその感触が傷に響く。いや、響かない。麻酔状態になっているのか、相当まずい状況だということか。
傷は治っている。意識は浮遊している。ろくな思考ができない。これはしくったなと、それだけは判った。ただの傷じゃあなかったらしい。
ガタッと大きく車体が揺れた。揺れたが、俺にはうまく伝わらない。

「………………あの時」
「んー?」
「お前の身体がどんどん冷えていって」
「あーまぁ血がだばだば出ればそうなるわなぁ」
「俺は立ち尽くすだけだった」
「そんなもんだろ咄嗟の時って」

左手に篭められた力が強くなる。ああこいつやっぱ握力すげぇあるんだなぁ、とか場違いな思考。血が足りてない。傷は治ってもそこらへんはどうしようもなかった。
血が足りていない。それだけなのだろうか。この浮遊感の原因は。判らないが違う気がする。どうやらただの傷じゃあないらしい。
いや、ついさっきも同じことを考えたじゃないか。もう忘れたのか。これは相当やられている。
ああ、相当やられているということもさっき考えたばかりの筈だ。もう冷静な判断は無理だ無理無理。

「俺は」
「んー?」
「兵士に言われるまで立ち尽くすだけだった」
「あーあとでクラウドにも御礼言っとかないとなー」
「俺は」
「んー」
「お前を見殺しにする所だった……!!」

寝転がっている俺でも、俯いているこいつの顔は見えない。銀のカーテンに阻まれる。
ああ、こいつの声がこんなに震えてんの初めて聞いた。泣いてるんだろうか。ちょっと見てみたいような絶対見たく無いような。
回りの奴らはどんな思いでこの状況を見てるんだろうなあと考える。いや、周りに人はいない。そうか、俺とセフィだけで使わせてもらってるのかこれ。
流石1st特権。違う。そんなことを考えている場合じゃないだろうしっかりしろ自分。あのセフィロスが泣きそうになっているんだぞ。多分。

「泣くなってー」
「泣いてなどいない」
「ふーん。まぁそこはどっちでもいーんだけどさー、お前俺のこと助けてくれたじゃん、フルケアかけてくれたじゃん」
「……兵士に言われなければ、俺はお前が失血死していくのをただ眺めていただろう」
「それは俺に死んで欲しくて?」
「違う!」
「うん。じゃあ別に何も問題無いって」
「だが」
「だがもでももヘチマもオクラもマイムマイムもねぇよ。」

あー俺今何喋ってんだろ。思考が、理性がおいつかない。眠い。左手が痛い。眠い。
視界はぼやけて銀しか見えない。ここはどこだろう。どこを走っているんだろう。あとどれくらいで着くんだろう。眠い。
眠いのだから寝たって構わないだろう。もう任務は終わっているのだし。ああ、眠る前に言っておきたいことが、あるような、ないような。

「なーセフィロスー」
「…………なんだ」
「固まって何も出来なかったんだってー?」
「………ああ。本当にすまな「俺はちょっと嬉しいんだよなー」………嬉しい?」
「おーう。不謹慎だけどさー、そんな、治療も忘れて固まるくらいショックってことはさー、俺、結構お前に大切だと思って貰えてるんだよなー?」
「?」
「俺は、それが、嬉しい」

セフィロスはちらりとこちらを見た。多分。視界が霞んでよく見えない。
ああ、無理、寝る。おやすみなさい。

「……ザックス?」
「…………」
「おい、ザックス?」
「…………………」
「ザックス!」
「……ちょーっと寝るだけだーって……へーきへーき…………」
「……………」
「俺が…冷えてったって……?」
「……ああ」
「んなことねーって……左手……お前……あっちーし……いてーし………」
「俺の手を熱く感じるならそれはお前が冷えているからだ」
「ふーん……まぁいーや……とりあえず寝る……左手痛いから離せ……」
「断る」
「我が儘……」



***



形ある物はいつか滅びる
知っていた
知っていた筈なのに
君だけは100年先も変わらないと理由もなく信じていた
そうして今、知り尽くしていた筈の現実を知る

1.英雄は英雄であることを失う
2.少年は少年であることに気づく
3.第三者は第三者であることを知っている

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