And But Cause I love you


[ν]-εγλ 0001/10/19 あるいは遠い昔

小さな小さな村があって、
先祖から伝わるその土地は
とてもとても大切で、
皆幸せだったけれど
それでも少し淋しかった。

広い広い荒野を挟んで、
小さな小さな村があって、
先祖から伝わるその土地は
とてもとても大切で、
皆幸せだったけれど
それでも少し淋しかった。

多分神様の気まぐれで、
二つの村の人達は
広い広い荒野の先に、自分達みたいな村を知って
二つの村は、遠く離れたお隣りさんになった。

その土地を
離れる訳にはいかなかったから、村と村は遠いままだったけれど、人と人は歩いて出会った。

鳥のように悠々と空を飛ぶことはできないけれど、自分達には足がある。

村人達は幸せだった。世界は自分達だけじゃなかったんだと。

だけどある日、子供が気付く、荒野の土が変わったと。

そしてとうとう皆が気付く、荒野は沼地になろうとしている。
海が大地を食べ始めている。

そして一人の青年が言う、愛する村へ行けなくなると。

荒野が海に変わったら、僕らはそこを歩けない。

それは嫌だと皆が思った。一人ぼっちは淋しいと言った。

船を作ればいいじゃないか、一人の男がそう言った。

船になるような大木は、沼にはないと誰かが言った。

私達は乗れないと、女子供が泣き出した。


「橋を作ろう」


村の老人が呟いた。

沼が海になる前に
誰もが皆渡れるように

何十年かかるだろう
何百年かかるだろう
そこまでする意味はあるのか?

「あるさ」と青年が呟いた。


「たった数百年が過ぎるくらいで、僕らの愛が変わるのか?」


泥を固めて草を混ぜて、石にも負けない煉瓦を作る。
崩れる沼地で揺らがぬように、深く深く土台を埋める。

荒野の真ん中まで土台を埋めて
彼らは愛する隣人に出会った。

ああ、なんだ、君達も

ああ、そうか、君達も



土台の上に柱を建てる。
何百年先も平気なように、高く高く柱を建てる。

荒野の真ん中まで柱を建てて
彼らは愛する隣人に会う。

あとは橋を渡すだけ。
急ごう海はすぐそこにいる。



柱の上に橋を渡す。
海が柱を襲っても、彼等の柱は壊れない。それでも海が襲うから、なかなか橋が渡らない。

諦めちゃ駄目だと誰かがいった。橋の向こうに彼等がいるんだ。

老人になった青年は、愛する隣人の夢をみる。
いつかまた、必ずきっと、君に会える筈なんだ。
橋の向こうの誰かを思って、老人は静かに呼吸を止める。



青年はある村に生まれた。
海の隣の村に生まれた。
生まれた時から作っていた。

どうして海に橋を渡すの?
さぁ、それが言い伝えだからね

判らないまま橋を作る。
大人になっても橋を作る。



青年はある村に生まれた。
煉瓦の上の村に生まれた。
生まれた時から作っていた。

どうして海に橋を渡すの?
さぁ、それが言い伝えだからね。

そしてある日青年は気付く
橋の向こうに橋がある

そしてとうとう青年は気付く
橋の向こうに村がある



皆が泣いた。皆が笑った。
繋がった橋の真ん中で、
一人じゃないと抱き合った。



また出会えたと空に叫んだ。



遠い遠い昔の話
誰も覚えていなくても
確かにあった物語

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