And But Cause I love you


[ν]-εγλ 0001/11/01 16:43:47

夢は破れなければいけない
希望は潰えなければいけない
努力は泡沫でなければいけない
未来は閉ざされなければいけない
期待は裏切られなければいけない

命は散らなければいけない


それがどうしたと俺は言った
それは悲しいと君が言った



***



「そういえば」
「うん?」
「この前、あのチョコボに聞かれたんだが」
「ちゃんとクラウドって言ってやれよ……」
「通じるということはお前もそう思っていたんだろう、小犬」
「ちゃんとザックスって呼べよ?!」

デスクの上の書類は片付いた。真向かいの副官は期限ギリギリまでやる気は無いらしくソファの上に寝そべっている。
……一週間ほど前に、溜まりに溜まった書類の修羅場を迎えていたから、おそらく来週くらいにはツケがくるだろう。
月に二回ほど、こいつは鬼のような形相で書類と格闘している。いや、もはや格闘技をしている。あれはなんだろう、パフォーマンスでもしているのだろうか。少し面白い。
ああ、だがそう、一週間だ。一週間前だ。

「オレとお前はどういう関係なんだとクラウドに聞かれた。」
「……?へぇ。よくわかんねーけど、そんな機会あったのか?」
「あぁ。調度お前が会議に行って、オレとあいつが取り残された時だな。」
「あ、あーあーあー……。ハイハイ、判った判った。」
「どういう関係なんだ?」
「俺に聞くのかよ」

ザックスは、苦笑しながらよいしょ、と掛け声をかけてソファから起き上がる。
俺はチラと時計を見た。月に定例の報告会まであと15分。
雑談一つ消化するくらいの時間はあるだろう。

「上司と部下、と答えたら、そういうのは違うと言われた。」
「そりゃそーだろ。」
「友達じゃないんですかと聞かれた」
「あー……」
「いまいちピンとこない」
「あー……」
「オレ達は友達なのか?」

目を閉じて眉間にしわを寄せてあーとかうーとか、意味の無い言葉を呟き続けている。本当に判りやすいな。根っからのパフォーマーなんだろう。

「イエスかノーで言ったらイエスだけど」
「そうなのか」
「友達じゃない、とは言えねーよ。少なくとも俺は。」
「そうか」
「しっかしうまいこと言えないのも確かだなー。なんとなく友達じゃしっくりこねぇや。」

あー、と頭をがしがし掻いて、せっかく起き上がった筈のソファにまた寝そべった。考えるのに何故寝るのか俺には判らない。というか、多分理由なんて無いんだろう。
その程度のことは判るようになった。意味があっても意図は無いというのは、こいつと出会って初めて知った。

「あー、なんだろーなー。うまく言えないもんだなー。」
「そうか」
「なぁセフィ、とりあえず友がつく言葉ばーっと言ってみてくれよ。」
「俺は辞書か」
「だいたいは覚えてんだろ?」

面倒くさい。確かに、小さい頃に言語の勉強だと言われて無造作に渡されたが、とくにやることもないから覚えたが、だが、面倒だ。記憶からの検索は得意ではない。
しかし自分から振った話題でもある。
少し後悔しながら、思いつくままに羅列する。

「悪友畏友幼友達幼馴染旧知旧友交友師友辱知親友心友戦友ちい……」
「俺が悪かった」

頭を下げて謝られても困る。オレは要望に応えただけの筈なんだが。

「キャパが限界越えた。あと一文字でも入ったら俺は目を閉じて寝る」
「知ったことではないが、起こさないぞ」
「俺も会議あるからやめて!起こしてあげて!」
「今までオレが一度でも起こしてやったことがあったか?」
「今までお前は見て見ぬふりをし続けてきたのか?!」

じゃああの会議とかあの打ち合わせの時とかあの報告会の時とかあとあのデートの時とか寝坊したのはセフィロスのせいだったのか……!
とかなんとか、恐らく失礼なことをぶつぶつ言っているので「お前が自力で起きないのが悪い」と釘をさす。最後に関しては本当にオレは関係ない。

「あーもうセフィロスの馬鹿!お前を友達だと思った俺が間違ってた!」
「そうか。ならばどういう関係なんだ。」
「……………友達?」

溜めた割に返ってきたのは最初と同じ答えだった。ふむ。文章が支離滅裂なんだが、意訳するとどうなるんだこれは。

「つまり、俺とお前は間違って友達になったということか」
「何処をどう間違えたらそういう解釈になるんだよ。」

違うらしい。だがオレにはこれ以上思いつかない。そもそもが判らなくて質問しているのだから打つ手もない。お手上げだ。

「戦友は結構イイ線いってたな……。でも別に戦友なら他にもいるんだよな……。なんつーかこう、もっと固有っつーか独自っつーか独創性……オリジナリティ……」

見ている限り、思考が逸れているとしか思えないんだが口を挟むのは面倒だった。『見ている限り』でそれなりに面白い物にわざわざ関わる必要も無いだろう。

「あー……無理。思いつかね。投げる。」
「そうか。」

分針は数字二つ進んでいた。ギブアップにタイムアップ、というところか。

「つーかなんでわざわざ名前をつける必要があるんだよーいいじゃねーかよー俺とセフィの関係は俺とセフィの関係です、でさー」
「いきなりやる気をなくさないでくれ」

唐突に拗ねられても困る。
どうせまた、思いつかない悔しさと面倒臭さが投げやりに纏められた結果なんだろうが、なおざりな返事をすると更に面倒臭いことになるのをオレは学習済みだった。

「あー、なーんか前にそーゆー名前の話をアンジールあたりから聞いたよーな気がすんなー」
「………『一体我々は、どこでも必ず我々の口をその何らかの名前に固定しなければならないのでしょうか』」
「あ、それそれ!何なんだいったい?」
「今度な」

説明をしている時間は無い。まぁ、暫く時間が経ってもこいつの興味が損なわれていなかったら教えよう。とりあえず今は、近いとはいえ会議室へ急いだほうがよさそうだ。
腰をあげた瞬間に、遠慮がちなノックの音。

「クラウドです。」
「…………入れ」

入ってきた黄色い頭に、そういえば全ての元凶はこいつだと思い出す。なんというか、無意識に全てを巻き込む奴だ。

「ザックス、この前提出した報告書書き直せってハイデッカーさんが。ハイコレ。」
「げ!なんでだよ、ちゃんと書いたぞ?!」
「俺も目を通したけど、これはザックス酷いでしょ……」
「何処が?」

俺には関係のなさそうな話だと結論づける。
だから、俺が足を止めたのは、本当に、思わず、としか言いようがない。

「何処って……、だってほらここ、『俺とセフィのナイスコンビネーションで、見事に鳥をブッ倒し、ついでに空を飛んで橋だということまで判明。凄くね?つーか空飛ぶって凄くね?』」
「え、駄目なのソレ」
「駄目に決まっているだろう……!」

思わず、そう、思わずつっこんでしまった。ああ、思わず、というのはこういうことか、と変に納得するくらい反射的につっこんでしまった。クラウドが目を丸くしている。

「お前、それは一週間程前に、悪鬼のような形相で作成していた大量の書類の一つだな?」
「悪鬼?まぁ、うん、そーだよ。」
「溜め込むのは知ったことではないが、もう少し真面目に書け。俺の監督責任が問われる。」
「真面目だって!あれはまさに俺とセフィ……の……」

いきなり口を閉ざされた。二言三言、言ってやりたいことは残っているんだが。
………どうしたんだ?
まったく判らないが、仕方がないので頭の中で片端から原因を検索する。クラウドが来てからだろうか。思い当たらない。

「うん。うん。これかな?」
「どうした」
「なぁセフィ」
「なんだ」
「俺達っていいコンビだよな」
「………ああ。空が飛べる程度には。」

ようやく合点がいった。灯台もとくらしというか、なんというか。
素直に頷ける程度には、的を射た言葉だった。

「つーことでクラウド」
「う、うん」
「これが俺達の関係ってヤツだ」
「へ?」

完全に会話から取り残されていた所にいきなりふられて、まったく対応できていない。それでもザックスは特に気にすることなく話続ける。

「コンビ、ペア、あとなんだろ、相棒か?」
「オレの相棒は正宗だ」
「そこは即答かよ!まぁいいや。相棒だと俺達の関係カッコつけすぎだからな。コンビくらいが、少し間抜けな感じがして調度いい」
「好きにしろ」

ようやく理解が追い付いたのか、少しずつ表情を変えるクラウド。
驚いているような、笑っているような、呆れているような、なんとも微妙な表情だった。

「もしかして、ずっと考えてたの?」
「応。なぁそれよりクラウド、聞いてはくれねーのか?」

今度こそ、はっきりとした苦笑を浮かべて、クラウドは尋ねた。

「二人ってどういう関係?」
「………良いコンビ、らしいな」
「空も飛べるくらいにはな!」

ああ、まさかあの話題がここまで繋がるとは思っていなかった。
15分で消化しきれると考えていたのは間違いだったらしい。
……………。しまった。

「ん?どーしたんだよセフィいきなり落ち込んで」
「…………報告会」
「あー……こりゃ完全に遅刻だな。ハッハッハ、俺を起こさなかったバチが当たったんだ!」
「随分とお前びいきの神なんだなソレは……」

時計の針は開始の5分先を示していた。ああ、糞、根掘り葉掘り聞かれるのか、面倒臭い。

「まぁいーじゃねぇか5分や10分」
「理由の説明が面倒なんだ……」
「んー?無能な副官の後始末とか言っておけよ。間違っちゃいないだろ。」
「………お前は別に無能ではないだろう。」

しかし正直に言うには馬鹿らしすぎる。仕方が無い。下らない用事だとか言ってお茶を濁すしか無いだろう。
………

「………どうした。そんな呆気にとられた顔をして。」
「いや、セフィにそんなことを言ってもらえるとは思っておらず。」

頭の中でさっきの会話を反芻する。…………成る程。らしくないことを言ったかもしれない。だが、取り消す程のことでもないだろう。

「…………ザックス、俺、セフィロスさんが落ち込んでたのなんて判らなかったよ?」
「マジで?結構解りやすかったと思うけど。」
「………本当、良いコンビだね」

今度こそ本当に踵を返す。もう引き止める物は無いだろう。

「……あ、セフィ!」
「……………なんだ」

こいつはそんなにもオレに遅刻をさせたいのか。多少の苛立ちを込めて振り返れば、意外にもこいつは気まずそうな顔をして頭をかいた。

「………いや、今気がついたんだけどさ」
「なんだ」
「セフィ、今から報告会だって?」
「さっきからそう言っている」
「何の?」
「?それは勿論、この一月間の任務……の………」

気がついた。いや、気がつきたくない。
オレの目の前にはザックス。
さっき、クラウドから渡された紙を右手に持って。
そうだ、それは一週間前の。

「この報告書……使うんでない?」
「……今すぐに書き直せ!!」
「えー、セフィ、遅刻してんだろ?とりあえずこのまま持ってけよ」
「断る!遅刻する理由が出来た……有害な副官の後始末、だ!」
「それ俺殺されてんじゃん!」

小さな声で、「やっぱり良いコンビだ」と呟くチョコボの声が聞こえたものだから睨みつけて黙らせる。

「ここまできたら連帯責任だ……。半分寄越せ。5分で終わらせる。」
「つまり残り半分5分でやれと?!」
「当たり前だ。」

もういい。5分も10分も変わらないなら10分と15分もたいして変わらないだろう。我ながらやけくそ気味だ。

「なぁセフィー」
「手を動かせ」
「連帯責任っていいな」
「殴ってもいいか?」
「監督責任より好き」
「……………」
「ザックス、ほんと、セフィロスさんに殴られるよ……」
「? でも今、セフィ怒ってないぞ?」



***



夢は破れなければいけない
希望は潰えなければいけない
努力は泡沫でなければいけない
未来は閉ざされなければいけない
期待は裏切られなければいけない
命は散らなければいけない

形ないものも全て滅びる

それが淋しいと俺は思った
それでも好きだと君は笑った

SSに関するコメントなどあったらこちらに。

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