And But Cause I love you


[μ]-εγλ 1999/02/24 20:12:39

右に左に揺れながら
綱渡りのように人生を歩く
どうしてそんな器用な事ができるのか
生まれた時から不思議だった

多分、オレは、ずっと昔に、そこから落ちてしまったから



***



うん。よし。

「腹が減った」
「知らん。」
「おいおい、もう少し何かあるだろうよ。」
「例えば?」
「『そうだな』とか。」
「気の無い相槌という点では変わらないだろう。」
「表面上だけでも取り繕う努力を見せてくれ。」

さて。どーすっかねこの状況。
ちょっと想定外というかなんというか。

「…………ザックス」
「応。」
「オレは料理をしたことが無い」
「別に驚かないよ。」
「お前は」
「超基本ならなんとか。もしくは料理と言えるか微妙な野戦料理。」
「…………」
「…………セフィロス」
「なんだ」
「作ろう」

仕方が無い。腹が減っては戦はできぬだ。いや、ミッション自体は終わってるんだがミッション後に飯抜くのはきつい。
戦をしたら飯を食え。
そうして満腹になったらまた戦をすると。無限ループだ。ご愁傷様自分。
普段ならば入ることの無い宿屋の台所。大の男二人が所在なさげに立ちすくむ。
飯だ。飯。たとえどんな無間地獄が待っていたって、空腹には敵うまい。

「あー、しかしまともな飯が食えると思ってたんだがなー」
「………仕方が無いだろう。宿屋の主人も女将も高熱で倒れているんだから。」
「わーってますって。」

まぁ、そもそもが、村人が皆ぶっ倒れた病気の発生源を突き止めろっていうミッションだったから仕方ない。
原因の胞子撒き散らしてたモンスターはぶっ飛ばしたが、だからと言って皆さんが即日で治る訳が無かった。

「しっかし、ソルジャーってだけで『お前らどーせ強いだろ病気とかなんねーだろ行ってこい行ってこい』って空気になるのは失礼だよな。」
「ああ、風邪を引かないのは馬鹿だけだというのにな。」
「何故バカだけは抜いた」
「お前は馬鹿だ」
「直接的すぎる!」

ぐぐぅぎゅるぎゅるくぉぉぉみたいな音を俺の腹が奏でる。なんという芸術家なんだ俺の腹。

「…………作りましょう」
「………ああ。」

台所の使用許可は貰った。
女将さんは、オイオイそんな所で力使うなよってくらい物凄い勢いで謝ってくれたが、セフィロスの「謝って何かが変わる訳でもあるまい」という心無い一言に意気消沈。
阿呆かこいつ。もしくは、鬼かこいつ。ありえん。

「何故病人にとどめをさす……」
「嘘はついていない」
「何も言うな。もしくは嘘をつけ。」
「人に嘘をついてはいけないとよく言われているだろう」
「正論が何時でも正しいと思うなよ。」

さーて、どーすっかねー。
首をかしげる。何せ、こっち方面にはトンと疎い。
とは言うものの、料理初心者と未知数の男二人、無難にいくしかないだろう。
まずは動かなくては始まらない。古びた、それでも清潔な台所を見回す。

「とりあえず材料確認すっか……。」
「ジャガ芋玉葱人参茄子鶏肉トマト」
「一息にありがとう。」

うーん、無難な材料だ。だがこの無難な材料から何を作ればいいのか判らない。

「ザックス」
「なんじゃらほい」
「こんなものを発見したが」

真顔のセフィロスの横にはカレールー。
今晩の飯は確定した。







「とりあえず全部刻んでルーにぶち込めばどーにかなるだろ。」
「なるのか」
「信じろ」
「何を」
「奇跡を」
「つまりどうにかならない可能性が高いんだな……?」

そうとも言うがそれを口に出したら終わりだ。言った瞬間にくじけそうな気がする。
言葉にするのとしないのとじゃ大違い。

「じゃ、セフィロスとりあえず野菜適当に切っといてくれよ。俺は米炊くから。」
「………適当でいいんだな?」
「今更形なんて気にしねぇよ。食えるサイズに切ればいいから。」
「善処する」

もしかしたらここまで神妙というか自信の無いセフィロスを見るのは初めてかもしれない。完全に硬直している。
何故ビデオカメラを持って来なかったんだろう……いや、このさい普通のカメラでいい、俺はこのセフィロスを記録に残したい!世界にばらまきたい!!
ああ、これが子供を持った親父の心境か!!ゴメン嘘後でからかいたいだけ!!!
面白かったのでそのまま観察を続けていると、あいつはギクシャクと動き始めて野菜を洗い出した。
…………いくらやったことが無いとは言っても突き詰めればただの野菜だぞ………。
普段あんだけ扱いづらそうな正宗を手よりも自由に使ってるくせに、何故包丁は使えない。
皮剥きに手間取る姿が面白くて思わず笑ったら物凄い視線で睨まれた。

「早く米を炊いてこっちに来い!」
「え、怒るとこソコ?!」

笑ったことを怒られるかと思ったがそれどころでは無いらしい。
つーかアイツ滅多に声を荒げないのに………どんだけ必死なんだ………。
さっき、親父の気分になってしまったのが悪いのか、そんな所までほほえましく感じてしまうあたり俺もそうとう空腹に侵食されている。脳が。
いかんいかん。全ては食事のためだ。

「うぃー。仕掛け終わったー。15分後には一回火の調子かえに戻るけどー。」
「………………」

無言で場所を空けられた。まな板の上にはまぁなんというかうん、ポジティブに言えば、努力を諦めなかった野菜。
勿論努力したのは野菜である。

「………まぁ、半分以上は残ってるし、初心者ならこんなもんなんじゃね?多分。」
「慰めても野菜が返ってくる訳では無いぞ。」
「野菜じゃなくてお前を慰めてんだからいーんだよ。」

さーてこれ煮込めばいいのかね?でっかい鍋に水を張って沸騰させる。順番なんざ判らないからとりあえずいっぺんに入れるしか無い訳だが。
味付けとかってあんのかな…。でも最終的にはカレーになるのに醤油とかっておかしいよな?
セフィロスは隣でただ覗きこんでいるだけだった。何の役にも立たねえこの英雄。

「ま、なんとかなるだろ」
「気休めか」
「気休めは大事だぜー」
「判らん。気休めに意味なんて無いだろう」
「げ、お前それ本気?」
「?ああ」

とりあえず鍋の中に野菜を全部放り込んだ。ドボドボドボン。後は知らん。
しかしこのままだと全ての野菜が茹で上がるだけな気がする。カレールーだけでこの状況かわんの?

「………セフィロス」
「………………なんだ。」
「大丈夫だよな、多分」
「恐らく駄目だろうな」
「嘘でいいから大丈夫だと言ってくれ………」
「それに何か意味があるのか」
「安心できるだろ」
「……結果は変わらないだろう」
「変わらなくても、さ」

本気で考えこんでいるらしいセフィロスに俺は正直驚きモモ肉山椒魚(腹減った)。
さっきの気休めが判らない云々の話は本当すぎる程本当だったらしい。
………こいつ今まで人付き合いどーやってたんだ………?

「……マジでわかんねぇの……?」
「判らん」
「…………ちょっと待ってろ」

色々言いたいことはあるが飯のことを忘れてはいけない。米の様子を見なくては。うん。うむ。よし。OK。
めんどくさいのでここでルー投入。
野菜………はもう少し放置で平気だろ。野菜……野菜野菜野菜………。

「あー例えばお前がさっき切った野菜があるだろう。」
「ああ。」
「それに対して俺がこう言ったとする…『うっわ、こんな汚いの見たことねぇ、目茶苦茶まずそう。』……はい、どう思う。」
「…………切れなかった俺に非があるんだろう。」
「あー違う違う!責任とか理論とか理性とか置いといて!」

わっしょい!会話が完全にちぐはぐだ。食い違いにも程がある。しかしこの状況で食い違いって三流の駄洒落みたいだな………。
顔の表情はうまく読み取れなかったが、割と困惑しているようだった。
こいつは、なんつうか、人として大事な何かを失いすぎな気がする。むしろ、最初から持ってなかったのか?わっかんね。
単純に知らないだけかな。しかし、どうやって知らずに生活してきたのか正直俺はさっぱりなんだが。

「お前が直感的にどう思うかだよ。俺に酷いこと言われんの想像してみ。悲しかったり悔しかったり申し訳なかったりムカついたり………そんな感じになると思わね?」

少し考えた後、小さく首肯するセフィロス。よかった、どうやら人の感情が無いロボットマンでは無いらしい。
腹が減るロボットはいない、とかいう格言どうよ。
少なくとも、腹が減っては戦はできぬ、よりはかわいらしいと思う。マジで。
腹が膨れたら戦をするが、腹が膨れるのは人間だ。膨れないよりは良い気がする。いや、マジ何の話だ。

「じゃあ逆に『大丈夫大丈夫、食べれればいいんだし、料理初めてなんだからこんなもんだって!』って言われた場合はどうよ。
「どう、とは」
「少なくとも、酷いこと言われた時みたいな気持ちにはなんねーだろ?」

さっきよりも少し長く考えて、さっきと同じように小さく頷いたのを見て俺は満足する。
長い話もこれで終わりだ。腹が減ってる時の説教なんて何も楽しくない。
そもそもなんで説教する羽目になってんだかな。俺別にそんなキャラでも無かったと思うんだけど。
むしろお調子者でおちゃらけて、場の空気を和ませる係みたいなんだったんだぜ?
いつの間にやら保護者だ。なんて、そんなこと言ったら全力で否定されるんだろうけど。あながちずれてもいない気がすんだけどな。

「だから気休めは大事だって言ってんだよ。出て来る料理は変わらなくても気分が大違いだろうが。」
「…………気分か。」
「だから気休めさ。」

考えこむセフィロス。悩むのは悪いことじゃない。
まぁ所詮はただの俺の意見だ。納得しろと強制する訳にもいかない。つーかそもそもなんでこんなこと話してんだろ。謎だ。
………全部空腹のせいにしておこう。なんて便利な言い訳。
空腹ってのは何物をも凌駕するね。三大欲求をなめちゃいけないってことだ。

「……だが」
「うん?」
「口では慰めていても、内心はいらついていたり、というのはあるだろう。」
「まぁ、あるだろうな。」
「……上辺だけの世辞よりは、飾らない方がいい。」
「んー?」

なーんかズレてる気がするんだが気のせいか?頑張って考えろ俺の脳みそ。栄養が足りないとか言うんじゃない!

「あー…、お前それは気休めとおべっかと厭味の違いだと思うぞ。」
「………どう違う」

難しいことをサラっときかないで欲しい。
ただでさえからっぽの頭(馬鹿だと認めよう!)を最後のエネルギーでフル回転だ。
頼むからこいつが納得するような意見をひねり出してくれよ!
目の前で茶色い湯がぼこぼこと沸く。こっからどうすればいいのか判らない。

「慰めと媚びと蔑み?」
「…………同じだろう。」
「いや全然違うと思うけどな」
「……一皮剥けば、結局は全て自己愛だ」
「別にいーんじゃね?」
「いや全然よくないと思うが」

エネルギーが切れた。
あーもう難しいこと考えらんね。腹が減った腹が減った。俺は飯が食いたい。とりあえず。
投げやりモード突入だ。頑張ったよな?俺。もう楽になっていいよな?
立っているのも面倒になってその場にしゃがみこんだ。
失敗だったかも。立ち上がれる気がしねぇ。

「つーかさーお前そー簡単に皮むくなよー」
「………は?」
「お前さっき皮剥きしたろー。大変だったろー?一皮剥けば一緒って言うけど、その一皮が大切なんじゃねーの?」
「人は中身が大切なんじゃないのか。」
「そりゃ中身は大切だけどよ。皮取り繕う努力は認めよーぜ。皆良いトコ見せようとして、化けの皮剥がれないように頑張ってんだからさー」
「…………」
「そもそもたまねぎとかどーなるんだよアレ全部皮じゃん………。つーかなんでこんな話してんの俺ら……」
「…………ハハ」

俺はびっくりしてセフィロスを見る。そんな俺にお構いなしに、あいつは少し困った顔で笑っていた。声をあげて笑う所なんて初めて見た。
ああ、ビデオ録りたい。
って、そんなこと考えてる場合じゃなくて。

「………そんなに面白いこと言った?俺」
「ハ、いや、なんだろうな、無性に笑いたい気分だ。」
「まぁいーけどな………」

笑うのは悪いことではない。そんな遠回しに言っても仕方ないか。笑うのは良いことだ。うん。
笑わない人間なんていない。俺の名言に加えといてくれ。

「…………カレーどーなったかな」
「ハハハ、ハ、さぁ?」
「いきなり投げやりだなぁ!」

様子を見る。うん。とりあえず見た目は不格好ながらにカレーだ。
茶色い液体なら、カレーとみなしていいだろう。匂いもまあ、すげえ薄いけど、するし。
味見味見………。

「うお、辛、味薄、舌に残る、サラサラしすぎ!」
「本来同居する筈の無い感想が混ざっているが」
「事実だぞ。」
「……………大丈夫じゃないか?」
「気休めが言えるようになったことは素直に喜ぶけど、休憩時間は終わりらしい。」
「…………ふむ。」

何か思いついたらしいセフィロスはゴソゴソと棚を漁り始めた。あった、と呟いたあいつの手には………缶?
ラベルに書いてある文字は逆光で見えない。

「……セフィロス?なんだそ…」
「これでいけるんじゃないか」
「え?」

嫌な予感がして止めようとしたが、それより先にあいつは中に入っていた粉を全てぶち込んだ。なんなんだ、と思った途端に立ち込める甘い匂い。
知ってる。知ってるぞ俺。この匂い。

「おま……これまさか………ココアパウダー?!」
「ああ」
「馬鹿かぁぁぁあぁぁぁぁ!!」







これは訓練。これも訓練。ミッションの一環だと思って心頭滅却すれば火もまた鈴木……!

「……そうか、そうだよな、風邪ひいてないってことはお前も馬鹿だってことだよな………」
「失礼だな」
「事実だろ……。まさかの奇跡だよ、ったく……。」
「そういうな。どうしても食べられないレベルではあるまい。」
「何でお前が慰めてんだよ!逆だろ逆!」

空腹は最大の調味料らしいが、最大の調味料使ってこの味はヤバイと思う。俺のお腹の芸術家はゴロゴロという音をたてはじめた。
悲劇のメロディだ。絶望の合図だ。風邪をひかないソルジャーは今、内側から破壊されつつある。

「……セフィロス」
「なんだ」
「明日俺が倒れたとしてもお前はお粥も何も作るなよ。」
「お前はそんなに柔ではないだろう。」
「それは気休めじゃなくて厭味な!」



***



嘘とホントの綱渡り
バランス崩せばさようなら

大嘘つきも馬鹿正直も
結局落ちれば一緒くた
皆どこかで踏み外して
結局最後は同じ穴

“落ちない努力は無駄なのか?”
“はい上がる努力は無駄なのか?”

“結局気分の問題さ”
“疲れたんなら休んでみたら?”

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