And But Cause I love you


他人の正目に己の贔屓目

疑問に思わないわけではないのだけれど



***



職業病のようなものだと思う。これは。若干神羅に対して損害賠償を訴えたいような気持にすらなる。なんで休日にまでこんなことやってんだろうなあ。
なんの賠償かって、俺の健全な休日の過ごし方を失わせた事について、だな。多分。そんな感じで損害賠償いかがですか。こっちがクビになるだけだろーけど。
目の前にいるグロテスクな雑魚いモンスター。溜息をついて一刀両断。返す刀でもう一匹ぶっ飛ばした。
前に同僚に言われた事がある。お前のって、剣っていうより鈍器じゃねぇの?
確かに。なんつーか、セフィロスみたいに綺麗に切る訳じゃあなくて、叩き潰すっていうかんじだもんなぁ、俺の。
料理でそれやると怒られるんだ、と最近エアリスから学んだ事を思いました。まる。
俺が料理を練習してちゃおかしいか?いやいや、これでも最近は結構上達したんだぜ、の、「ぜ」の所でバスターソードを一振り。ぐしゃり。
マッシュワームのソテーオリーブ風味。いかがですかってうっわまずそう。
そんなことを考えている間にモンスターは全員…員っておかしいか。全部どっかひしゃげて息絶えていた。
額に浮かぶ汗をぬぐう。暑い。運動したせいもあるがいやいやもうおかしいだろうこの気温。身体にまとわりつくような蒸した熱気。砂っぽい空気。
真夏の日中は遠慮なく水分を奪っていって、まるで砂漠にいるかのような錯覚。まあ、砂漠に比べりゃ全然マシなのは経験で知ってるわけだしここ街中だし。
いくら、ここってもう外じゃない?ってくらいに街外れとは言えど、街中に出たらそりゃあ退治するしかないだろう。大人しく森の奥とかにひっこんでてくれよな。
溜息をついて見上げた青空の切れはし。別に俺に何も呼びかけてはこなかったので、自分で自分の労をねぎらった。
職業病のようなものだと思う。
休日なんてものがアトランダム過ぎて、んでもって個人個人で違いすぎて、同僚と遊びに行くのもままならない。
たまの休みだぜ?まだまだ若くてぴちぴちの俺としては存分に遊び暴れまわりたいんだが、いかんせんそういうわけにもいかない。
朝思いっきり寝坊するっつーのもいいんだが、いいんだけどさぁ。なんかなぁ。
せっかくの休日を寝潰したと思うとその後精神的にどんよりした物が襲ってくるので、なんだかんだ朝、と呼べる時間帯のうちには起きてしまう。
いや、折角の休日だから寝潰すんだろーがっていう意見もあると思うけどな。俺がそうっていうだけ。別に否定するつもりはねーよ。
しかし誰かと遊ぼうにも同僚で仲良い奴はどいつもこいつも任務中。クラウドは休日なんてありません!って感じの恐ろしくやつれた顔をしてるのを見かけたのでアウト。
タークスの奴らはソルジャーとプライベートで関わりたがらないし。ツォンとかマジそっけなく断られた。仕事だーとか言って。
まあ個人的にレノあたりだったら誘えばなんか内容によっては付いて来てくれそうなんだが、いや、意外と駄目か、あいつ軽薄そうに見えて結構熱血漢だしなぁ。
仕事に誇り持ってるタイプだ。うんうん。それこそツォンの方が多分付き合ってくれる気がする。
シスネ誘っても良いんだけどエアリス誘った後に誘うっていうのはなんかちょっとモラルが無いんじゃないか…?気にし過ぎか…?
でもそれだったら俺は最初からシスネを一番に誘うべきなんじゃねーのと思う訳で結局誘えていない。
まあ、誘っても断られる確率の方が圧倒的に高いのは置いといて、だ。
そう、んでだからそう、そうだよエアリスが空いて無かったっつーのが誤算だ。心から誤算だ。
そう言うと、エアリスが普段から暇してるみたいに思ってるのか、みたいなツッコミを受けそうで非常に心苦しいんだが、実際そうだと思う。
毎日しっかり規則正しく生きているけれど、激動の用事なんてものは無い筈なのだ。
毎日のルーティンワークを毎日やっているだけで、あのスラムから外に出無い彼女が何かをしている姿と言うのは実はあんまり思いつかない。
実際、どんなに突然でも俺がデートに誘った時に断られたことなんて無かった。ていうか空いて無かったことなんて無かった。
だから今回断られた時は少なからずショックをうけた物だが、いやいや、エアリスも滅茶苦茶残念そうだったから俺が何か悪い事をしたという訳でもなさそうだ。セーフ。
いや、でも思い返してみれば、自分の好きなタイミングで現れてそん時だけデートして、普段は捕まらない俺って傍から見れば相当質の悪い男なんじゃねーの?

うわ、しまった。そんなつもりねーのに。

頭を抱えた街外れ。周囲にごろごろと死骸が転がってる中で、はたから見てたら俺の行動は滑稽だったかもしれない。けども、けども!
周囲に人がいるんならそれでいいんだよ俺今マジ孤独。誰か美人のねーちゃんとかがこんな俺を慰めに誘ってくれないだろうか。
俺から誘うのは無しだが、誘われたんならその娘と遊んだって構わない。俺のモラルなんてそんなもんだ。
あー、海行きたい海。やっぱ夏は海だろ。女の子の水着見てぇ。エアリスとか絶対にかわいい。
いや別に後悔はしてないけどな?でもまさかエアリスに振られた後であの坊主に見つかってモンスター退治頼まれるなんて思ってなかったんだよ。
すっげー気楽に声かけられたんだけど、あいつ財布の一件以来俺の事下僕みたいに思ってねぇ?
なついてるんだよ、とはエアリスの台詞だがまあそうだな、なつかれてるんだろう。別に子供は我儘でいい。そんくらいが可愛いってもんだ。限度があるとは思うけどな。
首を振って周囲を見渡す。やっぱりもうモンスターはいない。これでまあひとまず大丈夫かとその場を後にすることにした。
その場を後にした途端例の坊主が現れてお礼を言われたんだが、お前もしかして隠れて見てたのかって聞いたらやけに元気よく頷きやがったので教育的指導でデコピン。
あぶねぇだろ!と注意すれば若干反省していたが、こいつは多分同じようなことをするだろう。ガキの好奇心の強さは身を持って知っているので仕方ない。

「そーいやさっき、なんでいきなりしゃがみこんでたんだ?」と聞かれて物凄いあやふやに誤魔化した。まさか見られていたとは。

ゴミと誇りに塗れたスラムに帰って行く坊主を見守ってから、ちょっと考えて俺は家に戻ることにした。
まずはリセットだ。一度何もかもを洗い流して最初から休日を始めなおす必要がある気がする。
いや、さっきからなんかあの依頼に色んな八つ当たりをしちまってる気がするけども、運動をしたかったからその点ではナイスだったよな。
上手くいかない事をこれのせいにするのは間違ってるな。
これ別に何も悪くねぇし、別に頼られるのだって悪い気はしないしこれであいつらが少しでも平和に暮らせるんならそれはもう素晴らしい事だ。うん。
だからこのもやもやは完全に神羅のせいってことにしておこう。いや、最初からそういう話だったかな。
ああ、駄目だ、思考がぐっちゃぐっちゃになっちまった。やっぱり一度リセットしねぇと。頭も体も状況も何もかも。
俺は休日で、でも遊んでくれる同僚は誰もいなくて、エアリスには振られて、うろうろしてたらモンスター退治の仕事なんてうけちゃってでも別にそれ自体は悪いことでは無くて、それを終えて一時帰宅しようとしている俺。うん、大丈夫。オッケーオッケー。
どうも、駄目だ。休日に一日家の中に引きこもってるっていうのは、性に合わない。
だからやっぱり、まあなんていうか、色々な事が結果オーライなんだろう。俺はちゃんと健康的に世のため人のために汗を流したわけだ。
別に俺だって、引きこもる奴を否定するつもりはねぇし一日中ごろごろしてたい時はあるけど、そんな時でもやっぱり夕方とか夜には外に出たくなる。
とことん、家でじっとしてるってのは向いてないんだろう。って思ってるうちに自宅到着。そろそろ片づけねぇとなぁ。
バスターソードを戻す。あー、風呂入って着替よ。リセットリセット。
外出た時はこんなモンスター退治なんてするつもりなかったから私服だったし、話を聞いてるかぎり大したことなさそうだったから取る物だけ取って向かったんだよなあ。
その判断は別に間違っちゃいなかった。返り血すらついていない。どこも怪我してねぇし、つうか息も上がらないくらいだった。
ただ、ただ、どうしようもないのは、この汗だ、畜生。疲れなくても汗はかく。そりゃ、こんだけの気温の中であんなどたばた動き回ってたらさもありなん。
一体全体何度なのかと思って新聞を眺めたらちょっとありえない数字が見えたので投げ捨てた。駄目だあんなん見たら余計に気持ちが沈む。シャワー浴びよ。



あー、さっぱりした。やっぱ洗いたての服ってのは気持ちが良いな。うん。
そんなことを割としらじらしく思いながら時計を見る。まだ昼を少し回ったくらいだった。ふふん。これだから、休日はちゃんと起きるに限るのだ。
もしぐだぐだしてたら起きた頃にはこんな時間かもしれないが、見よ、おれは既に一仕事終えたのだ。
休日に仕事をするのと無暗に寝るのとどっちが幸せなのかは虚しくなりそうなので考えるのをやめた。どっちもどっちなんだろどうせ。
この後どうすっかな。あまり独りになりたい気分でも無い。あーあ。こうなったら仕方が無いと、最後の手段に出ることにした。
割と序盤に出てきたとかそういう突っ込みは無しな。
セフィロスの所行こう。仕方ない。仕方ない。
ぶっちゃけ昨日まで同じミッションだったわけで、だから休暇が被ってるわけで、つまりわざわざ顔を見に行く必要なんて一つも無いのだけれど。
こと此処に至っては、あいつくらいしか暇そうな奴がいない。
ある意味エアリスよりも確実にあいつは暇してるだろう。あいつに緊急要請とかあったら多分手伝いで俺もなにがしかの連絡が来るはずだし。
来てないという事は、火急の用事はあいつにはないということで、つまり、そんな時、あいつが何をしているのか俺は知ってる。絶対だ。
絶対にあいつはソファーで本を読んでるんだ。んで、俺の知らないクラシックの曲が流れてる。
外に出ようぜと誘っても頑なに嫌がるから、まあ、外出は厳しいかもしれないが。あー、一番最初にあいつ連れ出した時もめっちゃ苦労したなー、なんて。
そんな事思いながらもうすっかり覚えた道を通って奴の家に向かう。







滅多に鳴ることの無い呼び鈴が鳴った。より正確に言えば、滅多に鳴ることが無かった筈の呼び鈴が、鳴った。
こちらが何らかの行動を取る前に、まるで急かすかのようにもう一度呼び鈴が鳴る。リーン、という電子音。
もう少し間を開けてもらわないと、こちらとしてもアクションを取りようが無いのだが、そんなことは意識に無いらしい。思わずため息をついて眼を開けた。
普段と何ら変わることのない天井が見える。無機質な白いロックウール。
朝の遅い時間と言えばいいのか、昼の早い時間と言えばいいのか、それくらいに起きてからソファに寝転んで何をするでもなく、眠りにつく訳ですらなくぼんやりとしていた。個人的には、割と正しい時間のつぶし方だと思っているが。
ふむ。面倒だ。いっそこのまま無視してしまおうかとも考えた。一人きりの休日。怠惰な午後。それを崩してまで迎え入れる価値のあるものだろうか。
部屋の中の温度は適度に涼しく保たれている。幽かに流れるバイオリン。ここに別の騒音が加わる事を歓迎するような気分でも無い。この広くて殺風景な部屋にいるのが自分だけでも、それをわびしいだとか思うような感性は別に持っていない。
しかし、居留守を使おうにもどうやら俺が室内にいることはバレているようだった。まあ、窓の鍵は開いているし恐らく電子機器を使っているモーターの回る音が外でしているのだろうし、これで留守だと言い張る方が無理がある。そんな俺の迷いを見透かすかのように、もう一度鳴る呼び鈴。早く開けろという通告か。やれやれ。無視をしたらきっとベルが絶え間なく鳴り続けるのだろうし、窓を壊してでも侵入しかねない。経験論なのだから間違いないだろう。
今日はこのまま寝転び続けても良いと思っていたのだが。渋々、そう、俺は起き上がりたくなど無かった。起き上がりたくないのだが、仕方ない。
嫌々起き上がって玄関のドアを開ければ、予想通りの顔がそこにあった。ドアを開けた途端に室内に流れ込んでくる熱気が鬱陶しい。勿論こいつも鬱陶しい。

「ザックス」
「よ、遊びに来たぜ」
「誘った記憶は無い」
「誘われた記憶は無い」

俺がいきなり押しかけてくることなんてもう何度目だよ?いいかげんに慣れろよな、と聞き分けのない子供を説得するかのような表情で言われる。
とは言っても、その原因となる当の本人に言われたのでは納得する気にもならない。
というか、この件に関しては説得されるべきはこいつの筈だ。人の家に、アポなしで訪れるな。
そんな俺の不機嫌さを感じ取っているのかいないのか、まあ、どうせ感じながらも無視しているだけなのだろうが。
朗らかに「ほら、はやくそこどいてくれよ。俺中入れないじゃん。それにどんどん冷気逃げてくし」と告げられて諦めた。
部屋に入ることを促すでもなく拒絶するでもなく背を向ける。反省するつもりが無い奴に話したって何の意味も無いだろう。
ドアが閉じられればもう部屋は涼しい筈だったが、空気は一気にうるさくなった。間違いなく隣に立つこいつのせいだろう。
フローリングの床に沈む二つ分の足音。木が立てるパキ、という音が小さく響く。勝手しったる他人の家とばかりに、こいつは勝手にリビングまで侵入してきた。

「何してた?」
「横になっていた」
「ああ、寝てたのか」
「いや、起きていた」
「え、じゃあ何してたんだよ」
「横になっていた」

特に突飛な事を言ったつもりも無いのだが、こいつはしばらく考え込んだ後ようやく理解したらしい。俺には無い考え方だなーと笑われる。
今更こいつをもてなす気にもなれないので俺はさっさとソファに座った。手持無沙汰なので読みかけの本もついでに手に取る。
ザックスはそんな俺のことを気にもせずに、勝手にキッチンに入ってコップに水を入れてごくごくと飲んだ。ふてぶてしいにもほどがある。
本読んでるかと思った、と声をかけられて、別に俺だっていつだって本を読んでいる訳でも無いと投げやりに返した。そんな返事を返すことすら億劫だ。
まあ、本を読んでいる割合が高いことは否定しないが。現に今も暇つぶしに真っ先に本を手に取ったのだから。
エアコンの温度を二度ほど下げる。ついでにカーテンを閉めた。どうも、こいつが来ると部屋がいつもの空気を失ってざわめきだすからいけない。

「昼飯は?喰った?」
「まだだ」
「ふーん。どうするつもりだったんだ?」
「どうするつもりも無かった」

もう一度、さっきと同じようなキョトンとした顔を向けられて俺は溜息をつく。俺にはお前の方が理解できない。
起きたのは遅かったし、そこから今までずっと横になっているだけで起き上がるつもりも無かった。エネルギーを消費するような行動をしていないのだ。
だから別に、昼くらい抜いたって構わないだろう。それが世間一般と同じ生活だとは勿論思わないが、別にそんな生活がある事くらい認められても良い気がする。
こいつは、世の中の人間が全て自分と同じ暮らしをしているとでも思っているのだろうか。まさかそんな筈はないとは思うが。
こちらが少しぼんやりしている間に、一人納得したあいつは勝手にキッチンを漁っていた。だからこいつはどうしてこう人の家で。

「相変わらず冷蔵庫に何もねぇのな」
「悪いか」
「悪いな」

その言葉があまりにも自然に断言されたものだったから、そういうものかと一瞬納得してしまった。こいつのこの適当な信念は恐ろしい。
オレが騙されている間に、こいつは自然な動作でキッチンの上の棚を開いて閉じて引き出しをひいては閉じてしゃがんで下の戸棚を確認して、そのまま溜息をつく。失敬な。
なんかあったら俺が作ってやったのに、と上から目線で言われて丁重にお断りする。最近は上手くなったんだぜ?!と叫びだす声も無視する。
味の良しあしにそこまで拘らないが、好き好んでゲテモノを食べようとは決して思わない。食料が無くてよかった、という感じだ。
そもそも別に食べ物が無いくらい構わないだろう。ありすぎて腐らせてしまうよりはよっぽど効率的だ。
しかしまあ、思い返してみれば、以前覗いたこいつの部屋は、成程、俺とは比べ物にならないほど物が多かった。
一体全体、何をそんなに抱えて暮らしているものかと驚いたものだ。生きるのに自分で抱えきれないほどの荷物なんて邪魔なだけだろうに。
別に部屋が散らかっているという訳でも無かったが、お世辞にもきれいとは言い難かったのはそのせいだろう。部屋の広さに対する物の量がまったく比例していいない。
新聞は新聞で纏められていたし、衣服は衣服でまとまっていたが、たたまずに投げ出されていたせいで余計に散らかっているように見えたのは覚えている。
あと、何故か段ボールであったカップラーメンと水のペットボトル。一体全体あれだけの量を一人で消費するのにどれだけの時間がかかるのか。
それだけの時間場所を占領しておくなら、必要になった時に必要な分だけ買えばいい物をと訝しく思ったのを覚えている。その手間を惜しむものだろうか。
しわくちゃのベッドとよれたカーテンと、やけに眩しく、部屋に差し込んでいた夕日。まるいオレンジ色の光の中でちらちら光りながら散っていた埃。
そこまで思い出して、やはりこいつとオレは違うのだと、別に深刻なニュアンスではなく単純な生活の違いとして認識せざるを得なかった。
また一つ当り前の事に納得して、キッチンでしゃがんだままのザックスに声をかける。

「別に一食くらい食べずとも構わないだろう」
「一食くらい増える分には構わない気もするけどな」

一体全体何が良いのかは判らないが、「よし」と一言掛け声をかけてこいつは弾みをつけて立ちあがった。その掛け声にやはり意味など無いのだろう。
そのまま真っ直ぐ俺の方を見るその眼の不穏な光に俺は今から起こることを予想して憂鬱になる。その光はもう未来を決めた目だ。勝手にオレの事まで含めて。
こいつがこういうふうに真面目な顔をする時に限って、ろくなことにならないのだ。こいつの思いつきはたいていが俺には面倒なことだと相場が決まっている。
そう思ったのは表情に出てしまった筈だが、そんなことを意にも介さずに、こいつはやはりさっきと同じように自然に断言した。

「外、喰いに行くぞ」
「……外食か」
「応。ほらはやく支度しろ支度!」
「わざわざ外に行く必要があるか?」

言っても無駄だろうとは思ったが、一応疑問を呈しておく。この疑問自体は別にひねり出したものではなく俺の本心だが。
外に行くのは面倒だ。非常に、面倒だ。こいつが言うように支度をしなくてはいけないというのもまあ勿論面倒な理由の一つではある。
しかしそれ以上に、ただでさえ他よりも大きな男二人。目立つ事この上ない。意味も無く寄って来る女どもも非常に邪魔だし好奇の視線はうざったい。
店員は挙動不審になるしで、むしろ外に出てからの方が面倒なことは山積みだった。何事も一人が一番楽なのは変わらない。
俺がそういう理由で外に出るのを面倒がっていることを、こいつはとうの昔に知っている。知っていて促してくるんだから、このことは言い訳にもならないんだろう。
どうすればこいつは納得するのか考えを巡らしながら、何も思いつかないまま無駄なのだと薄々気づいている説得をする。

「別に俺は今何か食べたい気分ではない」
「俺は食べたい」
「だったら」
「独りで行けっつったらぶん殴るからな」
「…出前でも頼めばいいだろう」

俺の提案は盛大な溜息で却下された。そこまでされる筋合いはないと思うが、どうなのだろう。
部屋の温度は二度下がって、快適な温度に保たれている。湿度も丁度いい。かけっぱなしのBGMは丁度オレの好きなメロディラインに入ったし室内照明は適度だった。
ゴミも散らかっていないし無駄な物は無い。暇をつぶすための本はあるし正直横になっているだけで一日なんて簡単に終わる。
考えれば考える程外に出る意味なんてものは見つからなかった。そうだ、外に出たら蒸し暑い砂のようにざらざらした熱が出迎えてくるのだろう。
先程玄関先にでただけであれほど熱かったのだ。完全に外に出てしまったらどうなることやら。

「外出ろよお前」
「出る必要が無い」
「酸素足りなくなるぞ!」
「空気洗浄はされている」
「汚れてても良いから外の空気すえよ!」
「いや、言ってる意味が判らない」

話をしている間に、こいつはもう玄関への扉を開けた。逆らってもろくなことにならない。やはり、無理でもなんでも居留守を使えばよかったと思う。
んな生活してると筋肉落ちてじじいになるぞ、なんて言われたから、それでもお前よりは強いなとだけ返した。
言うじゃねぇか、と呟いたこいつの声と眼に宿る光の色が変わったのを見て取って自分の失言に気がつく。しまった。また訓練に付き合わされるか。
普段あれだけ動き回り飛びまわり働きまわっているというのに、何故こいつは休日にまで走り回るのだかさっぱり理解できないまま、諦めて鍵を手に取った。



***



「おいザックス」
「んー?」
「十一時だ。夜の」
「おー。もうそんな時間か」
「帰らないのか」
「えー、外出るのめんどくせぇ」
「昼間はオレを連れ回した癖にか」
「連れ回したって、お前嫌がって昼飯食ったらすぐ帰ったじゃん」
「で、お前は帰らないのか」
「めんどくせぇ」
「外に出ろ」
「出る必要ねぇよー」
「汚れていてもいいからお前の部屋の空気を吸え」
「おい、お前それは酷ぇぞ」

ソファーに居座って、結局そのまま明日を迎える。
なんでたまの休日まで顔を突き合わせているのかといえば、職業病だと苦笑いで答えるしかないんだろう。

銀月様リクエストで、「FFZ:セフィザ(クラ)で夏の休日がテーマのお話」でした!秋を通り越して更新真冬ですよ…。本当にもう遅筆ですみません許してやってください。
このような取るに足らない作品ですが、銀月様のみお持ち帰り可とさせていただきます!!リクエスト本当にありがとうございました!!

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