And But Cause I love you


光影の無い役者

存在しなかった過去を描く



***



「なんかこう、さ、ドラマが足りないと思わないか?」
「ドラマ?」
「そう!劇的な何か!ドキドキわくわくハラハラするような冒険!」
「お前の言いたいことはよく判らんが」

よく判らない。よく判らないが、何かまた馬鹿な思いつきをしたのだろうということだけは判った。こいつのそういう発想はどこからくるのか、それは本当に疑問で仕方ない。
何故と問うても、「さあ?」としか返ってこないことは学習済みだった。理由の無い思考の無い発想なんて、予測することも出来ないから、たいていそれに振り回されることになる。
ドラマ。この状況から出てくるような言葉では無い。まして、冒険などと。

「この状況以上に冒険らしい冒険があるのか?」
「あー、それは言わない約束だろ」

夕日を背にして、こいつは眉をしかめて笑った。いつものようにバスターソードを回転させて、しまう。剣についていた血糊が飛ぶ。ぱたた、という軽い音。
オレも正宗を一振り。煉瓦の上に直線を描いて飛び散る血。夕日のせいで色を失ってはいるが、間違いなく赤い血。
見えない風が吹く。東から西へ。さわさわと森が鳴る。見下ろす地平。壁も屋根も消えて空を仰ぐ瓦礫の塔。廃墟となった城の最上階。
蔦が幾重にも絡まり、風化し、瓦礫と共にちらほらと銀や陶器の破片が見える。ひび割れた床はかつての荘厳さを僅かに伝えてきた。

「塔。ドラゴン。これ以上何を望む」
「ロマンだよロマン」

細かな擦り傷に痛い痛いと大騒ぎしているその姿からは、先程までの緊張感が欠片も伝わらない。戦闘中に筋が切れたり骨が砕けたりしてもここまで騒がない癖に、つくづく判らない。
判らないということばかり学習してしまった。理解を放棄したとも言えるわけだが。こいつは気分だけで生きすぎているのだ。
そう、以前、唾を付けておけば治ると俺が言っても効果は無かったが、タークスの女が言った時には抜群の効果を発揮していた。
ある意味女性差別のような気もするが、そう言えば烈火のごとく説教されたので黙るべきなのだろう。
あまりにも煩いのでケアルガをかける。ついでに先程倒したドラゴンの羽を刈り取る。噴き出す血を避ければ、ザックスもひょいとかわしていた。
この羽にどれだけの防火作用があって、それが神羅の研究に役立つのか知らないが、役立つと思われたからこそ、わざわざこんな僻地にまで捕りに来る羽目になってしまったのだろう。
実に面倒だ。面倒だった。もう終わったことだ。
夕日はまだ沈みきってはいないが、時刻は大分暮れている。朝から探していたのだから、結構な時間を使ってしまったと言わざるを得ない。

「いやしかし、まっさかこんな密林の中に城があるなんて思わなかったぜ。しかもそこに住み着くドラゴンとか、まんまおとぎ話じゃねぇか」
「おとぎ話の冒険を求めていたんだろう。丁度よかったじゃないか」
「だぁから、ロマンが足りないっつってっんだろー」

目の前の男は実に不服そうに顔をしかめた。それでもピッチを取り出してヘリを呼ぶ。空の覇者が居なくなったのだから呼んでも問題ないだろう。行きのトラクターは、実に面倒だった。
最初からヘリを囮にしておけばこんなに時間をかけてドラゴンを探す必要も無かった気がするが、かかる経費と始末書を考えればコストパフォーマンスは低すぎる。
そもそも、いくら面倒とはいえど、そこまで人間をやめたつもりもない。溜息。暮れがかった空。
ヘリの羽音はまだまだ聞こえない。当たり前だ。あと数時間はかかるだろう。それまで此処で待機か。
森がざわめいている。王がいなくなったことを察知し始めたらしい。生態系が荒れるな、と何の感慨もなく思った。
数種類の生物が絶滅しても不思議は無いが、今度はその絶滅間近の生物を捕獲しろ、というミッションが来そうだなどと思えば、実に不条理に道理が通った面倒くさい因果だった。
あと一時間くらいで来れるってよ、と通話を終えたザックスが言葉を投げる。思いの外早い。どうやらある程度近くで待機していたらしい。材料をせっつく科学班のせいだろう。
しかし近くに着陸できるだろうか。この塔の上はお世辞にも広いとは言えない。ドラゴンとの戦いで大分瓦礫が飛んですっきりはしたが。
ホバリングするヘリに、この刈り取った巨大な羽をくくりつける手間を思えば、うんざりせざるを得なかった。

「なんだセフィ?まだ考えてんのか?」
「考える?何を」
「あら、違ったか。ロマンが足りないっつー話だよ」
「お前の言うロマンが判らん」
「普通ドラゴンを倒すとしたら、財宝目当てとか、囚われのお姫様を助けるとか、そういうんだろ…」
「このミッションは財宝目当てに当てはまるんじゃないか?」
「派遣社員が見つける財宝になんの夢があるんだよ」

大げさな溜息を無視して辺りを見回す。緑緑と生い茂る森。そのくせ砂のまざった風。砂漠地帯が近いせいだろう。ここはそれを食い止める最後の森だ。
とは言っても、ここの森の主がいなくなった時点で、神羅からの調査は免れられない。ここが砂漠になるのも時間の問題だろう。
ロマン。ロマン。こいつの言うロマンというのは、子供のおとぎ話のような展開と言うことだろうか。
ザックスに目を向ければ、塔から乗り出すようにして下を見下ろしていた。意味をなさない感嘆符が漏れている。
別に、ミッドガルに無いからと言って、今までこのような遺跡を見てこなかった訳でもないだろうに、何故そこまで感動できるのか。
そもそもこいつの実家は田舎だったはずで、だとすればこの自然にも別に感動する要素は無いだろう。どちらかと言えば懐かしいぐらいの筈だ。
何もかもに感動して、実際疲れないのだろうか。不可解だ。無理をしているんじゃないかと疑いたくもなって来る。無論そんなことは無いのだろうが。

「すげぇなぁ」
「何が」
「何もかもが」

本当に、物語みたいだ。いや、物語じゃなく、物語みたいなことが現実にあったんじゃないか?
横やりをいれるにも罪悪感が湧くような態度で酷く感じ入っているので、そうだな、と気のない返事を返した。そうだな、そうなんだろう、お前がそういうなら。
自分の返答は投げやりだったが、出た声の調子は思っていたよりもずっと面倒そうに聞こえた。
流石に俺が呆れていることに気がついたのか、乗り出していた身を元に戻す。別に、止めるつもりも無かったんだが。

「絶対にあったって」

景色を見渡していたザックスは、一言そう呟くと振り返った。想定していた間抜け面ではなく、やけに真剣な、真摯な目を向けられる。
唐突にそんな目を向けられてもオレはもう怯まない。知っているからだ。判っているからだ。本当に、いらないことばかり学習してしまった。こいつが真剣な目をする時は必ず。
薄く、気がつかれない程度に、深く呼吸をした。力を込める。全くもって無駄な体力を使わせてくれる。さあ、準備はできた。
こいつは背中に負っていたバスターソードを手に持つ。掲げる。祈りを捧げるように目を閉じて、開けて、俺をみる。

「この戦いがおわったら、貴方に言いたいことがあるんだ」

判っていたのに吹き出した。
こうくることは予想できていたのに、だ。随分と自分もまぬけな人間になったものだ。昔の自分が懐かしくもある。この程度の低俗な冗談に笑うことなどなかったろうに。
『冗談は真面目な顔で言わなくてはならない』数多いこいつの理解できない信念の一つだった。
何事も無かったように元の表情に戻したが、さっき一度噴き出してしまったことは否定できない。溜息をつけば小さく笑われた。
無暗に苛立って睨みつける。そんな俺の反応を見て満足したのか、さっきまでの緊迫した空気はどこへやら、こいつはにやにやとした笑いを隠しもしない。くそ。
別に端から見ていれば意味のない素っ頓狂な行動だろうが、今までの様々なやりとりとその時の笑いを思い出して笑いを堪えきれない。ああ、本当に随分と脳天気な脳。
一つ報いてやろうと思えば、浮かぶ戯曲の一幕。さて、どうだったか。確か先ほどのザックスと同じように剣を掲げて、そうだ、覚えている。
今から超合金でも叩き切るかのように集中する。ザックスの目がほそまったのが刀越しに見えた。

「この剣に誓おう。私の命は君とともに」

きっかり一秒後、目の前には石造りの床に笑い転げるザックスの姿があった。まさかそこまで受けるとも思っていなかったので少し呆気にとられる。
どうやらどつぼだったらしい。内心微妙ではあるが、まあ、一矢報いることはできたようなので良しとしよう。
地面をひたすら叩いている。叩いても痛いだけだと思うのだが全く気にしていない。ただ、大声で笑っている。
森のざわめきとささやかな鳥の鳴き声と、ひそやかな猛獣の唸り声だけだった世界に思い切り響き渡っていた。底抜けに明るい笑い声。

「や、やっべえ、超おもしれえ。こりゃ、ま、じで、今世紀ナンバーワンだわ」
「それはよかった」
「あー、あーやべえ。でも女の子たちはそんなこと言われたらきっとコロッと落ちちゃうんだろーなー。はぁ、こんなに笑えんのに」
「こんなお寒い言葉で落とすつもりはないが」
「やってみろよ。多分面白いくらい、うまく行くと思うぜ。いや、全然面白くねえけど俺的には」

面白いのか面白くないのか、どちらなのかよく分からない。まあ、こんな台詞をほかで言う予定など金輪際無いのでどうでもいいが。誰が好き好んでこんな台詞を。
ひとつ波が収まったのか、砂を払って立ち上がりながら、息切れしたこいつは深呼吸して呼吸を整えている。たまに思い出し笑いをして失敗している。ここまで笑われると逆に不愉快になってくる。
ようやくおさまって森に静寂が戻ってきた時には優に五分は経過していた。陽も心なしか傾いたように見える。
差し込む西日に、締まりなくにやついた顔が照らされる。唐突にその顔が真剣な物へと変わった。まだやる気か。
さて、何を言う気なのかと思えば、先程のドラゴンの死体に向かってバスターソードを向ける。整えた筈の呼吸をわざと乱れさせて、必死の形相でこちらへ叫んできた。

「はやく…はやくお逃げください!」

一瞬状況が飲み込めなかった。意味を理解して盛大に噴き出す。笑い声を立てることはなんとかこらえた。
少し口の端がひきつっていはいるが平静を装う。「お前に守られるほど弱く無い」と言えば「強さ弱さではなく立場の問題です!」とこれまた必死の形相で返された。
それが思いのほか真に迫った物だったので、思わず笑声が漏れてしまった。既に息絶えたドラゴンに向かって、「手ごわい…これは…!」などと言っているのは、実に不謹慎で滑稽だ。
何を言ってもその調子で返されるものだからそのうち流石に面倒になる。もう、いいかげんに普通に話せと言えばあっさり普段の口調に戻った。

「どうよ俺の渾身の演技」
「ああ、気合が入りすぎていて実に滑稽だった」

素直に褒めろよ、と笑われた。褒めてこれなんだが、と返せば割合本気でショックをうけていた。まさか良い線行っていると思っていたのだろうか。自分で。
何か返そうかとも思ったが、考えるのが面倒になってやめる。一度は意趣返しをしたのだしもういいだろう。
当の本人は、自分から仕掛けておきながら何か不満なのか、しきりに腕組みをしては考え込んでいた。
お遊びにもここまで本気になれるというのは一種の才能だと思うが、この集中力を遊び以外の時に発揮してほしい物だ。
さて、どれくらいの時間が経ったのだろう。流石にヘリが来るまでにまだ時間があるとは思うが、一定時間は消費した気もしている。
陽はどんどんと傾いて来ていた。これで周囲が暗くなってしまえば面倒さが増すことは間違いないので早い所来てもらいたいというのが本音だ。
そんなこちらの思考などお構いなしに、ザックスは考え込んでいる。

「なーんか違うんだよなー。今やりたいのはさー。上下っていうより仲間的な…」
「何が言いたい」
「なんつーか、主従関係じゃなくてさ、もっとこう、対等な感じ?そういうのねぇかな」
「どういうことだ」
「あー、なんかソルジャー候補の時の会話みたいな?」
「候補だった時など無いからな」
「へいへい。ご立派なこって。嫌味かよ」

ただの事実だ。そう言えば、事実を言うのが嫌味なんだろと返された。ならば何を言えばいいというのか。
沈黙は金。そういうことだろうか。どうも違う気がする。ここで黙ってしまっては会話が成り立たなくなるのだし、はて。
本当にこーいう感じ判らないのか?と聞かれる。こういう感じもどういう感じも、そもそも判るかどうかすら判らない。正直にそう返せば納得された。
じゃあ試しにやってみるか。そんな気楽な言葉。まるで役者のように二三度咳払いをして笑った。かと思えば唐突に指差される。

「おい!焼きそばパンは俺のだぜ!」
「さっぱりわからん」
「ああー…。こういうのは駄目なのかー…」

ブツブツと頭を抱えて考え込まれた。英雄様にはわからんのかあのヤキソバパンに対する執着が、云々。
言わせてもらえればまずヤキソバパンとやらを食べたことがない。名前からして大体の実態は想像できるが、そこまで美味いのだろうか。ぴんとこない。
敢えてイチゴ牛乳が流行ったことは?!と聞かれ、飲んだことがないと言えばまた打ちひしがれていた。何故そこまで落ち込まれるのか、確実に自分はそこまでの事を言っていない。
数少ないソルジャー1stの中で、流行るという概念はそもそもあまりない。実際に自分もその立場に立ってみて判るだろうに。
立ち上がったザックスの目は座っていた。普段の気の抜けた間抜け面でもなく、冗談を言う前の真剣な顔でもなく。

「なぁーセフィロス。ちょっと後ろ向いてくんねー?」
「断る」
「断んな。ほらほら!」

口調こそはいつも通りだが目が実に不吉だ。言う通りにするのは非常に気が進まないが逆らうのも面倒くさい。渋々言われたように後ろを向く。
その途端に悪寒が駆けた。視認するより早く身体が反応する。避ける。振り向く。
片手にブリザドをまとわせたザックスが不満げな顔でこちらを見ているが、文句を言いたいのはこちらだ。ふざけるな。
後ろを向かせておいて攻撃を仕掛けてくるというのは流石に反則だろう

「なんで避けるんだよ!」
「避けるに決まっているだろう」
「ばっか。これで首筋にあててウワッつめてぇーってなるんだろう」
「失敗したら大惨事だな」
「そーなんだよ判ってんじゃん。俺とかコントロール下手だったからなぁー。何人か首筋凍傷で病院送りしたわ」
「二度とオレにしかけるな」

大きな溜息をつかれるが、溜息をつきたいのもこちらだしその権利はあるだろう。
これなら今体験できたのに、と言われたが、今体験してどうなるという物でも無いし、経験したくも無い。
一体こいつは何がしたいのか。何処に行きたいのか。本当に、目的としている物が判らない。混乱するばかりだ。
子供のようなごっこ遊び。愛の告白だったり、物語のワンシーンだったり。自分が体験していないことを演じたがる。
それでも今まではまだ内容が判った。しかし今回は本当に何がしたいのか判らない。何に成りきっているのかも判らない。
ため息交じりに尋ねれば、青春ごっこ?と首を傾げられた。お前に傾げられたらこちらは打つ手が無いんだが。
もしもソルジャーじゃない普通に普通の人生を過ごしていたら、かな。そんな説明をされるがこちらは首を傾げるしかない。ザックスも傾げている。
オレからしてみればこの場所以外に自分の存在はありえないんだが。こいつは違うのだろうか。
それでもこの遊びをやめるつもりは無いらしい。また何か思いついたのか、唐突に身体を寄せてくる。

「なぁー。お前誰が好きなんだよぉー」
「なんだ?辛み酒か?」
「違う違う。しらふしらふ。普通に」
「好きな奴の告白ということか」
「なんかそこで納得されると変に照れるな」

面倒だ。面倒すぎる。血と埃で汚れた身体を密着されても何も嬉しく無い。
押しのければ、こいつも別にそこまでのこだわりが無かったのかあっさり離れた。意識せずに出る溜息を止められない。
この話にどうにか決着をつけなければ、より面倒な方向へと進んでいくことは目に見えていた。
どうすればこの不毛な会話は終わる。どうすればこいつは納得する。
任務が終わってから、停止していた思考を動かし始めた。ゆっくりと頭が回転する。
自分も自分で、何も考えずに脊髄反射のみで答えてきたのが原因だったのかもしれない。さあ、今までなんの話をしてきたのだったか。
こいつは何をしたいのだったか。こいつの意味不明な行動の数々。青春。青春ごっこ。

「つまりお前はこういう青春を過ごしてきたということか」
「あー。どうなんだろーなー。好きな子の告白なんかはやってねぇぜ?抜けるグラビアとか、もっと切実な感じの話だった」
「下劣だな」
「これで下劣ならお前どんだけ上流なんだっつー話だよ」

上流も何も、一般的な回答の筈だ。モラルの問題だろう。興味のある話題どころか、聞いた途端にげんなりする。
お前下ネタ苦手だよなあ、と笑われた。苦手というのだろうか。ただ、話題に出すべきではないと思うだけだ。
目を逸らしたことに何の意図も無いが、どうやらオレが図星を突かれて困ったのだと解釈したらしい。
そう解釈されても構わないから、もう黙ってもらえないだろうか。
そんな自分のささやかである筈の願いは全く聞き届けられなかった。こいつびいきの神様。全く。

「さあ、どっちが飛ぶか競争だぜ!」
「なんの」
「しょんべんに決まってるだろ」
「やめろもういい」

本気で煩わしく思っているのが伝わったのか、ようやく黙った。
さあ、こいつがこのまま黙っている筈が無い。筈が無いのならば、黙らせておく方法を考えねばなるまい。
思考は見事に空回りするばかりだった。空回りというより、回る前に結論がでしまう。すなわち、無駄だ、と。
判らないということばかり判るようになってしまった。こいつ相手なら仕方ないと思うことにばかり慣れてしまった。
オレの予想が正しいことを裏付けるがごとく、こいつはまた話しだす。

「なぁー。この後どうする?」
「後も何も」
「っかぁー。進路とか試験とかめんどくせえよなぁー」

なんだ、続きか。遅まきながらここで気がついた。進路。試験。耳慣れない言葉だ。
オレからしてみればこの場所以外に自分の存在はありえないんだが。
先程も感じたことを反芻する。神羅以外の場所に存在する自分。夢想できなくも無いが、一つもリアリティを伴わない。滑稽なだけだ。
そう言おうと思って、思いとどまった。ただの事実を言う必要は無いらしい。今はただ、このごっこ遊びに付き合うのが得策なのだろう。
かと言って、何かうまい返しが思うつく訳でも無い。

「そうだな」
「だろー?お前なんか考えてんのか?」
「いや、何も」

不愛想な返事だ。しかし付き合っているだけ愛想が良いともいえる。
何も。自分の言った言葉は我ながら無機質だ。希望も何もあった物ではない。青春という言葉からは随分と縁遠いものに思えた。
将来か。ここにいる自分以外は考えられないが、この先の自分のビジョンもあいまいだ。何者になるのかも判らない。年老いる自分も想像できない。
ここに居続けるのだろうか。どこかほかの場所へ行くのだろうか。行くとしたら何処へ?考えたことが無いとは言わないが、いつだって面倒で途中でやめてしまった。

「何も考えていないな。どうせどこにもたどり着けないだろう」
「うっわーやだねー。未来に希望が無い少年ってのは」
「ほっておけ」
「どこに行くか決まってなくても、何処にでも行けるくらいは言って見せろよな」

返事は肩をすくめるだけに留めた。下手に答えを返すと、話がどう転がっていくのか全く予測がつかない。
想像通り、こちらが何も言わなければ、ザックスは勝手に考え始めた。その考えが自分に理解できるものであることを願うばかりだ。
そもそも、何故こいつはいきなりこんなことを始めたのだろう。どうせ理由など無い思いつきであることは明白だが。それでも。
青春。青春?その言葉の意味は勿論知っているが、今までこいつがとっていたあの行動は青春だというのか?
だとしたら自分は青春のなんたるかと言う物を何も知らないのだなと思う。実際、例をあげろといわれても思いつかない。

「他になんかあるかなあ…。意外と分からんもんだ」
「そもそも青春とはなんだ」
「青春なぁー。確かに何だろうな、これ。よくわからねぇや。俺もなんだかんだ、田舎から飛び出して訓練漬けだったわけだし」
「そうか」

ようやく意見の一致がみられそうだと思った矢先、同時に飛び退いた。
今まで自分が居た場所が大きく抉れている。何が起きたかと思えば、先程切り取った羽が思い切り暴れていた。切り口から肉が盛り上がってきている。
肉が盛り上がっているどころでは無い。身体が生まれる。足が生える。爪が伸びる。首が覗く。

「再生、してる…?」
「ああ。ありえない生命力だ」

しかし、本体ではなく切り落とした羽の方から再生するとはどういうことだ?本体から羽を生やす方が圧倒的に効率が良いだろう。
いや、そもそも絶命した物がもう一度ここまで再生するなどと、そんなことがあるのか?どういうことだ。
どういうことだ、と考えた自分に気がついて溜息が出た。そういうことか。科学班も同じことを考えたのだろう。
何がしかの実験で、このドラゴンの羽の再生能力にでも気がついたのだろう。それか、ドラゴンを調べているうちに、羽に再生能力があると推測をたてたのか。
どうでもいい。心から思う。ただ、防火作用云々はただの言い訳に過ぎなかったのだろうと思うばかりだ。
羽だけ切り落とさせて、どうなるか調べたかったに違い無い。見事、奴らの見込み通りこうして再生した訳だが。
面倒だ。面倒だ。どうせ任務は羽を持ち帰ることなのだし、ヘリが来るまで、再生する羽を殺し続けろというわけか。
そもそもヘリで運ぶことができるのかも微妙になってきた。ただ、近場で待機していたということは、こうなることを見越していたのだろう。
出来れば、一回目の再生が終わるまでに運びたかったというところか。遅かったわけだが。
考え事をしているうちにもどんどんと、元の雄姿を取り戻していく羽。いや、もうドラゴンと言った方が良いか。
そうはいっても脳を再生するのは流石に手間取るようで、首が出来てからはその速度が落ちていた。
落ちている原因はそれだけではなさそうだが。
首元。氷の塊が出現して再生箇所を塞いでいる。ブリザガ。ザックスをちらりと見ればマテリアが輝いていた。
珍しく適切な判断をしたものだ。それとも、先程の続きだろうか。
近寄る。正宗を構えて、切り刻んだ。首も胴も足も全て。羽を傷つけるわけにいかないのが面倒な所だ。
これだけの力があるのなら、多少刻んでもすぐに復活しそうだが、確証が無い以上実行する訳にもいかない。

「ナイスプレー!」
「…お前こそ」

あ、なんか今の青春っぽいな。
そう言って呑気に笑ったこいつは、おそらくこの面倒な現状を理解していないに違い無い。
このまま、羽の切断面にブリザガをかけ続けていろと言い捨てれば煩く騒ぎだす。
一瞬だけ王を取り戻した森は、今は静寂に包まれていた。こいつの声がよく響く。実にうるさい。
その声にまぎれて幽かにヘリの音。ようやくか。陽は沈みかけている。急がないと作業が面倒くささを増す羽目になる。
さて、どうやって羽を持って帰るか。科学班の馬鹿どもが、そのへんも抜かりなく手配していればいいのだが。
急速に近づく音。バララララ、と間抜けな咆哮。夕日を背にホバリングするヘリ。
吐いた溜息は、思っていたより明るく響いた。

「さあセフィロス、後ろ乗るかい?」
「お前が操縦するわけじゃあないだろう」
「お前、本当に青春判ってないんだな…」
「余計なお世話だ」
「なんでドラマ的な展開は判るんだ?」
「ジェネシスに大量に読まされたからな」
「無闇に納得した」

じゃあ、こういうのならどうだ?
実にふてぶてしい笑顔で吐かれた台詞。

「お客さん、どちらまで?」

ここで察せないほど愚かでは無かった。思わずこみ上げてくる笑みを堪えて言う。

「お前とともになら何処へでも」

声を立てて笑いながらヘリに近づく。特殊な容器を持って降りてきた職員に一つ安心する。
結局青春などと言う物は判らないし、これからも判らないままだろう。そんな過去は持ち合わせていなかったのだから。
ただ、隣にこいつがいて変わらずに意味の判らない大騒ぎをして。ぼやけた未来の中でその景色だけは色鮮やかに浮かんだ。
随分とまた、ロマンに満ちた世界じゃないか。



***



存在しない未来を夢見た

すまき様リクエスト、 セフィザで爽やか青春ごっこ!でした。
このような駄作品ですが、一応、すまき様のみ、上記連作と合わせてお持ち帰り可とさせていただきます。
それでは、こんなぐだぐだサイトに暖かいリクエスト、本当にありがとうございました!
これからもよろしくお願いいたします!

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