And But Cause I love you


私が死んだ日の空ときたら

鍵を、ドアのそばの腐った植木鉢の下においてアジトを出た。緩やかな坂道に敷かれた白い石畳の上をのろのろと歩いていく。
朝が早すぎて、通りの店は皆シャッターを下ろしたまま、町は静まり返っている。
潮の匂いを孕んだ風が吹いて上着の裾を揺らして、空を見上げたら、眩暈がするほど青かった。目的も何も忘れてしまいそうだと思う。石造りの塀の上に置かれた、サボテンの赤い花が、視界の端できらきら光っている。
通りの途中で暫く足を止めていると、右隣にプロシュートの気配を感じた。

プロシュートが何も言ってこないので、俺も特に何も言わず、再び歩き出した。どちらも黙ったまま、二人並んで歩く。
右隣で、あの見本のような歩き方の、規則正しい足音がする。なんだかいつもの休日のようだった。
お互い暇なときは。当初も無く町をぶらついた。偶にペッシやメローネがついてくることもある。オフにも仕事仲間としか予定が無いとは、うんざりする話ではあるが。

「なあ、リゾット、なんでアジトの鍵かけたんだよ」
シャッターが閉じたままのピザスタンドの傍で、プロシュートの声がそう言った。そういえばなんでだろうな、と俺は思った。アジトの鍵は、メンバー全員が合鍵を忘れるせいで、結局いつも開けっ放しにされていた。
ギャングのアジトに盗みに入る馬鹿もいねえだろ、というホルマジオの楽観的な台詞を思い出しながら、留守に入られたら嫌だろう、と我ながら物凄くずれた答えを返すと、隣で短く息を吐く音がした。
顔は見ていないが、多分笑ったのだろう。皮肉っぽく、いつものように。

ピザスタンドを過ぎて、上り坂をあがりきると、連なる街灯の向こうに海が見えた。船の白い帆が、日の光をうけて眩しい。
緩慢な傾斜で伸びていく下り坂を進んでいくと、不意に隣の気配がなくなった。
立ち止まって振り返ると、プロシュートは坂の丁度一番上に立っていた。相変わらずの、目が覚めるような綺麗な顔に、少し困ったような笑みを浮かべて眉を寄せている。
何をしているんだと言おうとして、俺は声が出なかった。

「悪かったな、面倒残しちまって」

染みの無いシャツが、船の帆と同じように白くて、眩しかった。
そうして俺は思い出す。自分が頑なに隣を見なかった理由も、今日の目的も、アジトに鍵をかけてきたわけも、何もかも。

「構わん、リーダーは俺だからな」

だから謝ってくれるな。

言いながら、俺は母親に嘘がばれた子供のような気持ちだった。
風が一陣、強く吹いた。目を砂が掠めて、咄嗟に目を閉じて、開いたら、俺は一人だった。
町は相変わらず死んだように静かで、視界には鳥の一匹もいない。
俺は踵を返して、港の方へと歩き出した。二度とは振り返らなかった。
置いてきた坂のずっと向こうに、見知った背中が並んでいるような気がした。そんなはずがないのに。
本当にそう思ったのだ。暗殺者が幽霊かよと、お前たちならそう言って笑うんだろうと知っていたのに。

誤字脱字があったとしたらそれは全て管理人のタイプミス……です……^^^^^
もうね!これを頂いた時の感動と衝撃といったらなかったね!!
私の理想の暗チっていうかリゾットぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉ!!!!ぷろ!!!!
打ち込みながら泣いてた気持ち悪い人は私です………。本当すみません………。
無理言って転載許可をいただきました!!本当にありがとう!!!!

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