And But Cause I love you


彼が全てを捧げた日あるいは無声

さようなら



***



失われる意識の、どの瞬間まで自分が覚えていられるのかなんていうのは誰にも判るもんじゃあない。
たった今死にかけて死にそうで死んでいく俺にだって判りゃしないんだ。
ただ、降り注いでいる筈の雨の感覚がもう判らない。俺は俺の身体も判らない。
ただ、意識だけが、意識だけが残っている。残っていると言えるのかさえ判らないけれど。俺は。俺は。
思い返す景色。勝手に頭の中に浮かんで一瞬で消えていく景色。景色。景色。
ガキの頃、あのド田舎の故郷で川遊びをしていて、そうして次の瞬間にはもうでっかくなって飛び出していって、
そうして、ミッドガルについて、訓練して、ソルジャーになって、そうして、
沢山任務をして、殺して、泣いて、殺して、笑って、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
泣き方を忘れかけて泣いて、泣いて、泣いて、そうして、色んな奴らと出会って、別れて。
大切な奴が死んで、大切じゃない奴も死んで、大切じゃない奴が生きていて、大切な奴が生きていて。
ああ、ああ、ああ、アンジール。俺はやっぱりあんたに生きていて欲しかった。化け物でもなんでもいいからそこにいて欲しかった。
ジェネシス。マジ、馬鹿、マジ、意味わかんねぇ、けど、でも、やっぱ、俺、お前のこともっとちゃんと殴りたかった。素手で。剣なんかじゃなくて。
涙が、雨が、涙なんだろうか、雨なんだろうか、泣いてんのかな、泣くだけの体力なんて今の俺にあるのかな。
悲しいなあ。悲しい。悲しい。悲しい。悲しくて悲しくてたまらない。
エアリス、エアリスごめん。本当にごめん。俺待たせっぱなしで最後まで待たせ続けて、待たせ続けちまうわ。最低だな。頼むから幸せになってくれよ。
悲しい。悲しい。悲しい。悲しい。俺は。俺には、まだやりたいこともやんなきゃいけないこともあって、でも身体は動かなくて。
俺は死ぬ。一秒後か三十秒後か一分後かわかんねぇけど、俺は死ぬ。

なぁ、でもさ、クラウド、お前、お前は生きてくれよ?お前は生きるんだぞ?お前は俺の友達で、俺はお前の友達だから、遠慮なんかしねぇぞ。
生きろよ。絶対。滅茶苦茶大変だと思うけど。俺の持ってるもん何もかも全部やるから。一つ残らず持ってっていいから。遠慮なんかするなよ。
楽しいことなんて全然無いかもしんねぇけど、ゼロじゃねぇんだ。絶対。
そうだ、ゼロなんかじゃない。俺は、俺は沢山無駄なことしてきたけど俺の人生何一つとして無駄なんかじゃなかった。
俺は、俺は、生きて、生きて、生き抜いて、死ぬこの瞬間まで、俺は、生きて、生きる。
雨が眼に入る。口に入る。体中を叩き続ける。そんなものはやっぱりもう俺の身体には届かなくて、それでも。
思い出す俺の人生。
沢山任務をして、殺して、泣いて、殺して、笑って、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
泣き方を忘れかけて泣いて、泣いて、泣いて、そうして、色んな奴らと出会って、別れて。
今俺は世界に別れを告げる。
裏切られたんだろうか?利用されたんだろうか?大切な奴に殺されかけて、信じてたやつに殺されかけて、がむしゃらに助けようとして助けきれなくて。
全然判らねぇけど、でも、俺は、それでも、俺は。
生きたい。生きたい。生きたい。俺は、大切な奴を大切にしたい。あの毎日に戻りたい。だけど。だけど。
この暗い雨の中、ひとかけらの光もないまま雨に打たれて一人死んでいく俺は。俺の人生は。

ああ、なんて、しあわせだったんだろう。



ありがとう。ごめん。でもありがとう。さようなら。

もう二度と会えない沢山の見知らぬ奴と、出会える筈だった沢山の誰かと、俺の沢山の大切な奴へ。俺が生きた世界へ。
悲しい。悲しい。涙は、雨は止まらない。俺は、もっと、生きたかった、愛したかった、だけど、それでも。俺はもう死ななきゃいけない。
生きたい。つらかった、苦しかった、泣いてばっかだった、泣き方を忘れても泣いてばっかだった、でも。
それでも俺には守りたい奴がいて、大好きな奴がいて、確かに俺の事を好きでいてくれる奴がいて、もっともっと生きたいって思える俺は。
何度だって思う。
しあわせ、だった。

なあ、セフィロス。セフィロス。セフィロス。聞こえるか?聞こえているか?
おい、届けよ、これだけは絶対に届けよ、届いてくれよ、頼む。
この瞬間に死ぬ俺は、俺は、最後にお前を思うよ。お前を思って死ぬよ。
なあ、俺、お前に何があったのか、結局最後まで判ってやれなかったけどさ。
それでも、お前を最後まで思う奴はここにいるぞ。俺がいる。ああ、もうこの際俺だってこと判んなくってもいいから。
お前を思って泣くやつがいるんだって、届いてくれよ。
頼むから、届いてくれよ、届けてくれよ、誰でも良いから、あいつに。
俺はお前のことが好きだ。だからお前は世界に独りなんかじゃないんだ。ひとりじゃないんだ。ないんだよ。
なあ、世界に見切りをつけるなよ。俺の分まで生きてくれよ。幸せになれよ。俺の持ってるもん、お前にだって、一つ残らずやるから。
俺がここで死んでく代わりに、お前は幸せになってくれよ。俺もうすっげぇ幸せだから、残りは全部お前にやるよ。
セフィロス。俺は、お前と、生きたかった。
でもさ、俺、それよりも、俺は、お前が、幸せなら、俺は、だってもう十分に幸せだから。
頼むよ。幸せになってくれよ。お願いします。誰でも良いからあいつを救ってやってくれ。俺じゃあ無理だったけど。頼むから、誰か。
頼むよ。だれか、だれでもいいからあいつに届けてくれ。

なあ、セフィロス。一人ぼっちは寂しいだろう?お前、自分でそう言ったろう?
なあ、セフィロス。俺も寂しい。せめて死ぬ前にもう一度、俺は、俺は、お前に。

もう一回でいいから、名前を呼んでくれよ。笑ってくれよ。ずっとじゃないけど俺達は一緒にいて、ずっと俺達は一緒だったじゃねぇか。
なあ、なんで今お前は隣にいないんだよ。思い出の中にしかいないんだよ。
涙が、涙が、涙が、涙が、涙が、なみだが、なみ



逢いてぇなぁ。



次に眼を開けた時、雨はもうやんでて、俺は。



***



彼の幸福な一生

あとがき

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