晴れた日は良い。
全ての物が輝いて見える。
***
大事なことは楽しむことだ、と自分なんかはそう思う。
躁鬱がかなり激しいと自覚しているからこそ、その思いは顕著だ。落ち込んでいる時の絶望感なんて、そんな頻繁に味わいたいものじゃない。
たまにだったら、むしろ良いものなんだけど。
上がりっぱなしなんて楽しくないだろ?上がり続けるジェットコースターの何が面白いってんだ?
「おぉい、イルーゾォ。飯食いにいかねぇか。前におめぇーが旨いつってたパスタの店連れてってくれよ。」
「えぇ?急だなぁ。」
階段で2階から降りてきたホルマジオ。声をかけられたイルーゾォはソファから顔だけ振り向いた。
おいおい、そんな無茶な体勢じゃ首痛めるぜ。
隣のギアッチョはぴくりともしない。どうやらテレビのチャンネル争いに敗れてから、イルーゾォの興味は逸れてたらしい。
そりゃあなぁ。
超能力警察24時って何が面白いんだよ。そこらへん、ギアッチョの好みはなかなかぶっ飛んでる。警察!警察だって!!おまけに超能力ときたもんだ。おいおい、製作者、あんたすげぇセンスだ!!
「せっかくこんな綺麗に晴れてんだぜ?テラスで美人のねーちゃん見ながら春を謳歌しよぉじゃねぇか」
「本音はそっちか。しょぉーがねぇーなぁー。」
「おい、それは俺の真似か?」
似てねぇよと笑う彼と似ているよと笑う彼。楽しそう。いいねいいね。凄くいい。楽しいことはとっても大切だ。
「お前らは、昼は?一緒に行くか?」
「いや。俺はもう食べたよ。ありがとねイルーゾォ。」
「これ見終わるまではいい。」
「先約だ。」
俺とギアッチョとプロシュートの返答に、二人はそれじゃあと太陽の下に出て行った。成る程、確かに良い天気だ。清々しい良い天気だ。俺達には眩し過ぎるくらい。
良いね。良い感じだ。何がって訳じゃなく、実に穏やかすぎて不穏だ。ほら、一波乱ありそうだろう?
楽しまなくちゃ。楽しむんだ。楽しめばいいじゃないか。
何をくさくさすることがあるだろう。そんなものは下らない。犬にでも食わせて死んでしまえ。この言葉良いよね。犬を下等に見てるのが無意識に出てるあたり。
いや、死ぬ必要は無いんだったかな。
でも、かわいいかわいい犬にそんなもの食わせる外道はやっぱ死ぬべきだ。誰だそんなことする外道は。はいはーい、それは俺、メローネちゃんでーっす。あれ、なんの話だったかな。
俺が死んだ話だったかな。
うん?俺まだ死んで無いって。だって人生楽しみたいんだから。
なんてね。
馬鹿みたいな思考にひと区切り。論理の破綻も話の飛躍も、自覚してる分には愉快で愉快だ。ゴミみたいな考えはだからこそ面白い。
イカレてるふりなんてこんなに簡単。思わず笑いたくなったから俺は遠慮なく笑うことにした。
二人が出ていってから静かだった部屋に響く。
うるさかったのか気持ち悪かったのか、テレビを見ていたギアッチョが横目で睨み付けてくる。なになに、構ってくれるの?
「やっぱさ、生きることは楽しいことであるべきだと思わない?」
「てめぇが楽しくてもこっちは楽しかねぇんだよ。クソッ、離れろ!」
「あーらら、冷たいのー」
ソファの背もたれごしにギアッチョに抱き着いたら殴られた。おいおい、暴力ふるってちゃ良い子は育たないぜ、とか、俺が言っても洒落になんないか。むしろ俺が言うから皮肉効いてる?スパイス強めでいかがでしょう。刺激的だぜ?
「つーかテメェ、ついこの前まったく真逆のこと言ってなかったか?あぁ?」
「えー?そうだったっけー?」
「テメェで言ったことにくらい責任持て変態。」
「オーケィ。じゃあ俺は適当にその場限りの言葉をぺらぺら並べるという言葉に責任を持とう」
「俺の前で下らない言葉遊びしようなんざいい度胸だ」
ホワイトアルバムが発動されたから俺はすたこらさっさ。敵前逃亡。カッコ悪い?別に良いじゃないか。ギアッチョは敵じゃないんだから。
でも、ツッコミにいちいちスタンド発動させるのはやめてほしいなぁ。霜が降りた革のソファ。あーあ、絶対傷むぞ。
逃げた先は一人用のソファに座るプロシュートの後ろ。このお方はチラリともこちらを見ないでなんかの雑誌を読んでいた。逃げ込んだ俺にも無関心。
へいへい、COOLなことで。だけど巻き込みます。大好きだからね!
「いやーん、ギアッチョが迫ってくるー、助けて兄貴ぃー」
「気色悪い声だすんじゃねぇ!誰が迫ってるってんだふざけんな!!!」
「この頁読み終わったらお前らお望み通り説教してやる。おとなしく待ってろ。」
「おい、お前らって俺も入ってんのか?!わりぃのはそこの変態だけだろうが!!」
返ってくるのは無言。肩をツンツンついても無反応。ギアッチョの怒鳴り声にも無反応。言うことは言ったとばかりに、俺達なんて騒いでるのが当たり前で自分は関わらないのが絶対みたいな。知ってるかい?
嵐の前の静けさってやつ。
うーん、でも、実際の嵐の前って風の音で割とうるさいと思うんだ。動物とかも逃げ出すし。ざわざわざわざわ。不穏な空気。
「おい、聞いてんのかよプロシュート!!」
ただ、嵐が来たら人間が騒ぎ出すってだけ。嵐が来る前から知ってる癖に、実際に来なきゃ判らない。目で見た物しか信じない。目で見なくちゃ信じられない。ただの対比じゃないか。
ああ、何の話かって?
ぱさり
硝子張りのローテーブルの上に投げ出された雑誌。優雅に立ち上がる彼。空は綺麗に晴れ上がってる。
俺達には眩し過ぎるくらい。
なぁ、雷が鳴り始めたら、外に出たくなるだろう?そういうことさ。
だから何の話かって?まだ判らない?
「さぁ、俺の邪魔をした悪ガキは誰だ?」
上がり続けるジェットコースターなんてつまらないだろう?
台風が来たら傘を持たずに踊るだろう?
「優しい優しいこの俺が、」
ほらほら、不穏で穏やかな空気。顕れたスタンド。立ち上がった彼。こちらを見つめる瞳。
「お望み通り説教してやろう」
さぁ、俺は嵐を呼び寄せたぞ。
見ろよ、こんなにも楽しい人生!
*
ねぇ、ギアッチョ。
…………
いまさらだけどさ、テレビ途中だったね
別にいい
あれ?あんなに真剣だったのに
犬の惨殺死体が出て胸糞悪くなったとこだったんだよ
ありゃりゃ。ギアッチョって動物好きだったっけ。
好きかどうかはしらねぇが、別に罪はねぇーだろ。超能力のために殺すとか。
ああ。成る程そういうこと。
お前は何も思わねぇってか。
うん?いや別に俺、犬好きじゃないし。
……そうかよ。
うん。あ、ギアッチョ、飯食いに行く?
お前、食ったんじゃなかったのかよ
ああ、あれ嘘。
…………
そういえば、プロシュートの先約って何だったんだろーね。
知るか。行くぞ。
あ、俺パスタ食べたーい
てめぇはイルーゾォに謝れ。
***
嵐の日が好きだ
全ての物が歌い叫ぶ
その後に現れる晴れ間
最高にイカしてるってことさ。
この言葉ってもう古い?