And But Cause I love you


頑是ないままごと

手を繋がなかった、キスもしなかった



***



「おや。奇遇ですね」
「ああ、先生か」

目立つ。本当に目立つ長身。真っ白なコート。
この田舎町には似合わないことこの上ない。フランスやらイタリアやらを歩いているならまだしも。八百屋やら安い理髪店が立ち並ぶ商店街になんとそぐわない事か。

「何してるんです?」
「……いや、別に。君は?」
「ああ、僕は取材というかデッサンというか。そうですね。ついでですし、少し付き合っていただけません?」
「堂々と“ついで”扱いされたら、着いていかない訳にもいかないな」

片眉を上げて答える彼。正直言ってこの人は苦手だ。苦手だ。とても。何考えてるか判ったもんじゃない。
今だって、僕の厭味をどう思ったんだかさっぱり読めない。
厭味だと理解する程度の頭はあるんだな、と、それだけ。不快に思ったのか愉快に思ったのか。
ただ、その経歴は本当に面白いと思う。話を聞きたい。ちょっとした苦手意識がなんだって言うんだ。康一君から少しさわりを聞いたが、その情報はあの糞野郎仗助からの物だ。
人づての人づての人づての情報、なんてのは、それはもはや、歪み過ぎて原型を留めたモンじゃない。
曇天の下。コンクリートの上を並んで歩く。歩きにくいと思ったら、彼は常に車道側を歩いていた。別にこちらを女性扱いしてる訳では無く、癖なんだろう。
まぁ、彼より体格の良い人間なんてそういない。むしろ、車に追突されても勝てそうな貫禄がある。反応を見る意味でも直接そう言ったら、
「ロードローラーをぶつけられた事ならある」
嘘だろ?本当にこの人、読めない。

「……ああ、調度いいな。あそこの喫茶店。少し肌寒いかもしれないですけど、オープン席の方でいいですね?」
「ああ」

歩道を見渡せる座席を探す。さぁ、仕事はここからだ。寄って来た店員に「ブラック2つ」とだけ言う。勝手に注文を決めた僕に文句を言う事も無く、彼はパシパシと瞬きしただけだった。
さっきから彼に文句を言われ無いのだけれど、さて、これは彼の包容力が高いのか、僕が地雷を踏んでいないだけなのか。
取り出すHの鉛筆。クロッキー帳。

「恋人をね、描きたいんですよ」
「そうか」
「人物を密着させれば済む問題じゃあ無くてね……。例えばホラ、あそこ」

目線で指す。彼の瞳も動いた。
僕が指したのは通りの向こうにいる4人組の男子学生。何が楽しいんだか、大方男子の話題なんてのはスポーツか下ネタか、まぁ、そんなもんだ。
あいつらの言葉に意味なんて無くて、ただコミュニケーションを取りたいだけの無意味な羅列。どうせ、マジで、と、ヤベェ、が会話の7割を占めてる。猿の鳴き声と何も変わらない。
言葉で意志疎通出来ないくらいに馬鹿だから、むやみやたらとボディータッチが多い。しょっちゅう隣に肩をぶつけて相手の背中を叩く。前のめりに笑う。

「下手な恋人同士よりくっついても、そんな空気が一つも無い」
「男子学生の集団で例えるって発想は無かったな」

せめて異性の二人組で例を示してくれ。
そう続ける彼に、僕は渋面を作るしかない。調度運ばれてきたコーヒー。湯気をたてるそれを一口。こんなこと、口が裂けても仗助達には言えないが。

「それが苦手なんですよ。恋してる奴らってのをあらわすのが」
「ほう」
「だからこそ今日は練習にと思ってね……」

本当に、こんなことあいつらに言ったらどんな不愉快な事になるか。彼は少しだけ驚いた声を出して、表情は変えずに、元通り黙った。
落ち着きが違う。
違う、が、落ち着き過ぎだ。僕とは一回り違わないくらいの、年齢差。それを鑑みたって、もう少し人間らしくていいと思うけれど。ふん、まぁ、僕がどうこう言う問題じゃあない。
少しの沈黙。ただ、これは断言できるが、この人は沈黙を気まずく思う神経なんて持って無いだろう。むしろ、沈黙を好む側の人間だ。
彼がコーヒーを置く、カツリという音。
話し声。
僕の背中側から歩いてきて隣を通り過ぎる若い男女。手を繋いで話をする。どうやら隣町にできたショッピングモールへ行くらしい。
あんなの、そこにあるからお洒落に見えるだけで、実際この町にある服屋とたいして変わらないっていうのに。本当に良い物を買いたいならもっと遠出しないと無理だ。
少しずつ遠ざかる二人分の声。一つになっている背中。
僕は描く。
彼は見ている。

「今通り過ぎたカップルいたでしょう」
「ああ」
「あれがカップルだってことくらいは僕にだって判る。勿論。あの女が身につけていたのはどれもこれも一過性の流行りもので、逆に男の方は去年の服だ。洗ってよれてる。
  それで服しかないショッピングモールへ買い物行くってんだから女の方に合わせてんだろう、それも判る。女のテンションの高さ的に、付き合って間もない。
  オーケイ、それはいいんだ。」
「それだけじゃ満足いかないか」
「全然いきませんね。全く満足とは程遠い。自分の愚かさ加減に嫌気がさす。ここまで低脳だったかってね」

それでも僕は写す。手を繋いで去るカップルの後ろ姿。そうして出来た絵を見て、やはりなんて愚かしい絵だろうと思う。
こんなの、ただの写生だ。写真だ。いやいや、生きてもいないし真実でもないし、ましてや絵である筈がない。駄作。

「空気がね、判らないんですよ」
「雰囲気ってことか?」
「まぁ、そんな感じです。彼らの吸ってる空気が判らない。」

彼は話さない。黙ってコーヒーを飲んで続きを促してくる。僕も返事を期待していた訳じゃあない。下手に判ったような事を言われるよりはずっとマシだ。
僕の漫画について考察するのは結構だが、それで僕自信まで理解したようなつもりになられちゃ堪らない。
『先生と私はきっと同じような事を考えている筈なんです』?
よくあるファンレター。止めてくれ。僕は絶対に君と同じような事なんて考えちゃいない。

「色は思考の外って言葉知ってます?」
「恋愛は理屈や常識で判断できないってやつか」
「ええ。僕は割とその言葉に賛成でね。奴らに常識なんて通じないんですよ」
「まぁ、否定はしない」

成る程。否定しない。否定しないのか。彼は。一つ、彼の情報を加えてイメージを修正。否定しないってのは、身に覚えがあるってことだ。他人事だろうが自分のことだろうが。

「多分あいつらには地球の重力も無いし、酸素も吸わないし、睡眠も必要としない。上も下も、右も左も、昨日も明日も関係無いんです」
「面白いな」
「そんな常識をひっくり返すような事を、『恋しちゃった』の一言で成し遂げるんですよ?理解できない」

話している間に、今度は向こうからまたカップルがやってくる。若い。若いというか、幼い。まだ14くらいじゃないか?14歳で、もう世界をひっくり返す術を手に入れている。
実にいらだたしい。いらだたしいが、祝福しよう。君達にとびっきりの挫折が訪れるように。ドラマが好きだろう?
白い紙の上に現れる二人の姿。

「理解出来ない事はそんなに問題か?」
「僕は、僕が理解できる物しか描けないんでね。」
「成る程」
「普通の側から眺めた観察結果なんて、常識の世界にいない奴には通じない。
僕の目には手を繋いでるようにしか見えない彼らも、彼らからしたらセックスしてるのかもしれないでしょう」

嗚呼、と彼はそこでようやく表情を出した。呆れるでも無く、蔑むでも無く。
ああ、納得した、とでも言うような顔。ずっと疑問に思っていた答えが、そのへんの看板に書いてあったかのような。
僕は見る。そんな彼を。読もうとする。彼を。ヘブンズドアーを使う訳にもいかない。確実にぶっ飛ばされる。やるときはやる人間だ。この人。
そして僕は目を逸らす。堪えきれなくなったのではなく、またカップルが通り過ぎたからだ。

「なので、まぁ、調度会ったので、承太郎さんにも恋愛の話を聞こうかと」
「ああ、成る程」

それはたしかについででしか無いな。
そんな事を言うもんだから、怒ってるんですか?と聞いたら、いいや、と返された。

「ただ、俺は結構根に持つタイプでね」
「怒ってるじゃないですか。それ」
「怒っていないさ。先生はまだ無事だろう」

つまり、怒っていたら僕は無事じゃ済まない訳だ。物騒過ぎる。この話題は危険な気がしたので、急いで話を元に戻した。

「まぁ、怒ってないなら、承太郎さんの恋愛論でも話して下さいよ。具体的な経験を交えてくれるとなお嬉しいんですがね」
「難しいな」
「別に難しい話をしなくていいですよ」

彼は少し考えこんだようだった。考えるという事は答えるつもりがあるということだ。
飲み干すコーヒー。話はまだ続くだろう。二つ分の追加を頼み終わるのをみて、彼は口を開いた。

「俺も俺で一般論はうまく言えないがな」
「構いませんよ」
「恋は判らん」
「へぇ」
「愛なら判る」
「普通逆なんじゃないですか?」
「さぁ。ただ、俺は他に言葉を知らない」

言葉を知らない、それなら仕方ない。仕方ない。
マジで、とヤベェ、しか知らない猿達。ただ、そいつらには他の感情が無い訳じゃなくて、他の言葉を知らないだけなのだ。伝える術を知らないだけ。いやぁ、馬鹿だ。
ただ、別にそれは馬鹿に限った話じゃなく。どんなに知識を溜め込んだって、言葉にならない気持ちというのは存在する物だ。言葉で全て表せるなら世の中に漫画なんて生まれない。

「誰だったのか聞いても?」
「ああ。誰、というか、一人じゃないがな。俺の友人だ」
「友人?」

拍子抜け。それがもろに顔に出たのか、彼が目を細める。日本人離れした長い睫毛が集まってけぶる。それでもやっぱり感情は読めなかった。
届いた次のコーヒー。二人同時に口に運ぶ。

「そうは言ってもな、先生、世の中には友愛ってモンもあるんだぜ」
「ああ、成る程。それは見落としてたな」
「友人のために命を懸けるし、自分のために友人の命を賭けるさ、俺は」
「それ、どうなんです、人として」
「さぁな。俺はそういう奴を友人と呼ぶし、そうじゃない奴を友人とは呼ばない」

ハードルが高い。彼の友人になるにはそれくらいの覚悟が必要らしい。別に友人に立候補するつもりも無いので特に問題は無いのだけれど。
彼はコーヒーを飲む。こちらが何か言わないと、もう話すつもりは無いなと気がついた。
言葉が足りない。しかも本人、気付いていない。気づいていても、話す気がない。言葉を持たない訳でも無い癖に。

「そりゃ随分と皆さん崇高なことで」
「崇高なんて言葉が似合う奴は一人もいなかったがな」
「いなかった?」
「もう死んでる」
「……へぇ。それはそれは」
「ああ、いや、一人は生きてるが、最近連絡が途絶えがちだ」
「それは、貴方のために死んだんですか?」

踏み込む。
これくらい直接的に聞かないとこの人は答えないだろう。
僕は自分の左手が強張るのを感じる。緊張している。
殴られる覚悟はしていた。手と目が無事なら良い。これは怒るだろうと思った。
ただ、彼は長い睫毛で瞬きをしただけだった。咎めることも責めることもなく。

「それが判ってたら、俺はここにいない」

そしてまた、コーヒーを一口。あんまりにも穏やかな流れで、違和感が一つも無かったせいで、その言葉がどういう意味なのかは聞きそびれた。
ここにいないってのは、精神的な意味で?それとも実際に肉体的に物理的に死んでるって意味で?
完全に質問のタイミングを逃した僕は仕方なく別の質問をする。

「いつ?」
「18の時だな」

成る程。そりゃ、大人びもするか。今の僕より若い時にそんな経験をしたのでは。
多分彼は、僕など及びもつかないような世界で想像も及ばない目に遭っている。
それを思えば自分は浅薄だ。こんなことで悩んでいるというのが恥ずかしい事のようにも思えてくる。こんな話を持ち掛けた事も。
ただ、彼に判らないのなら、自分が判らないのもある意味理にかなう。いや、これは逃げかもしれない。よくないな。

「それでも恋は判りませんか」
「判らないな」
「そんなもんですか。恋人とかは?今はいないんですか?」
「結婚した時も、恋とやらはしていなかった気がする」
「……って、結婚してたんですか?!」
「子供もいる」

白々しい顔で、嘘だろ、おい。なんなんだこの人。
彼自信の口から、既婚未婚の話は出ていなかった。独身だとも、彼女がいるとも言っていない。
今まで誰も尋ねなかっただけだ。
別に、結婚してたって変な年齢じゃあない。だけど、糞、ええ、おい。こんなに動揺してるのは僕だけか。
いや、頭を抱えて叫ばないだけ理性があると思う。
仗助あたりに言ってみろ。絶対凄い反応をするぞ。

「男の子?女の子?」
「女」
「……愛してますか?」
「愛してる。俺のために命をかけさせようとは絶対に思わないが」
「溺愛じゃないですか……」

何が友愛だ。俺の為に命を賭けさせるだ。この人。最初からこの話を出せ。友人の話を入れる必要がどこにあった。ふざけてる。
意図的に隠しやがったな。この話。
そのくせ、聞いたらあっさり答えた。その程度だ。その程度の適当さで隠した。
話し出す前の考えこむ間。その間に、「まぁ、この話は、いいか」くらいの気持ちで話さなかったに決まってる。ああ、もう。
何が、他に言葉を知らないだ。
そんなの、愛以外の何物でも無いだろう。
きっとこの人は娘の為に、上も下も昨日も明日も、時も止めて世界を変える。

「貴方は本当に読めないな」
「俺は読む専門だ」
「いやな専門ですね」

なまじ冗談にならないだけ質が悪い。彼は少し意地が悪そうに口の端を上げた。ああ、根に持つってこういう事か。
目を逸らす。気まずくなった訳でも、向こうからカップルがやってきた訳でも無く、少し日が出て来た気がしたから。雲に切れ間が出来てきた。

「恋については語ってもらえないんですね」
「そういえば、昔聞いた事があるな。自分の為に相手を殺すのが恋で、相手の為に自分を殺すのが愛だとか」
「じゃあ、貴方は友人に恋してたんですか?」
「自分が死ぬ覚悟はしてた。愛してたよ。」

向こうからくる年配の夫婦。紙に写す。写す。また駄作。
破り捨ててもいいが、僕はなんとしても今日中に編集に原稿を送りたいし、その為にはあと一コマを埋めなくちゃいけない。
その一コマの、ヒントにでもなるかもしれない以上、捨てる訳にもいかない。ノートに溜まった恋人達。
今日はこれ以上望めそうにないかな。
彼に聞きたいことはまだまだある気がしたが、どうしようも無い、というか、潮時だ。二杯目のコーヒーも底が見えてきている。
それじゃあ、と僕が言うよりも先に彼は口を開いた。
僕は気付く。彼の方から口を開くなんて、もしかして、今日初めてじゃないだろうか。

「俺は、愛されてたんだろうな」
「はい?」
「あいつらに」
「たいした自信ですね」
「ああ、愛されてた自信はあるぜ」

自慢か。皮肉の一つでも言おうと思ってノートから目を上げた。ら、何も言えなくなった。
自慢どころじゃない、その目には、あんまりにも何も浮かんで無かったからだ。空っぽの目。おいおい、冗談だろう。

「だから皆死んでいった」

そんな目、どんな人生経験を積んだって、しちゃいけない目だろう。
『同じような事を考えている筈』?漫画越しに何が判るっていうんだ。少なくとも僕は、こんな目の前にいる人間の考えている事も判らないぞ。
糞、どうやら僕は思い違いをしていたらしい。
家族の話を隠したんじゃない、浮かばなかったんだ。
愛と聞かれて、真っ先に出て来たのが、彼の心を占めたのが、友人の話だったんだろう。まだ生きてる人もいると言ってたが、いやいや、それこそカムフラージュだ。それこそ虚偽だ。
死んだ人。ねぇ。
自分の命を懸けていい、とまで言い切る奴が死んで、揺らがないなんて、そんな人間有り得るもんか。落ち着き過ぎ?とんでもない。
10年近く経っていて、死んだ時の年齢までサラっと出て来るくらい、彼は忘れ無かったんだ。
そんなの、そんなのをあらわす言葉を、僕は一つしか知らない。

『僕の目には手を繋いでるようにしか見えない彼らも、彼らからしたらセックスしてるのかもしれないでしょう』

あの時。あの時の彼。
もしかしたら彼はあの時、気付いたのかも知れなかった。
いや、気付かないふりを、やめたのかもしれなかった。
だって、だってあの質問をした時、彼は否定しなかったのだ。
嘘をつかずに人を騙すなんて、大人のよくやる手段だった。

「ねえ、承太郎さん」
「なんだ」

最後の質問は、さっきもした筈のその質問は、本当にあっさり出て来た。
殴られるだろうとは思わなかった。

「貴方はその人に恋してたんですか?」
「それが判ってたら、俺はここにいない」

変わらない無表情。何の感情も浮かべない目。
ただ、僕は目を逸らさなかった。
男の癖に長い、微かに震えた睫毛の先に、僕の答えがある気がしたので。
ああ、これで、最後のヒトコマが埋まる。
沈黙は別に、気まずく無かった。



***



「それじゃあ、そろそろ」
「ああ」

財布を取り出そうとする彼を留める。流石にここは払わせてもらわないと面子がたたない。

「ありがとうございます。参考になりました。」
「そりゃ、よかった。続きが気になってたモンだからな」
「はい?」
「俺の予想だと、あと3話くらいでエレナーゼに告白すると思ってるんだがな、主人公は」
「は、ちょ、え、待って下さい。ええ?」
「どうした」

彼の口から飛び出す聞き慣れた単語。聞き慣れた所じゃない、その名前をつけたのは僕だ。この一週間、彼女のせいで悩み続けたんだから。
埋まらない最後の一コマ。

「あんた、僕の漫画、読んでたんですか?」
「俺は読む専門だと言っただろう」

いいや、確実にあの時はそんなニュアンスじゃなかった。糞、なんて人だ。嘘を一言もつかずに人を騙すなんて。
おいおいおい、彼はきっと興味が無いだろうと思ったからこそ、僕はあんなぺらぺら悩みを喋ったんだぞ。

「てっきり、漫画なんて読まないタイプだと思ってましたよ……」
「学生の頃から読んでるぜ」
「あああ、もう!!」

僕は読者に、悩み相談をしてしまっていたらしい。
ほら、読者の考えている事なんて判らないって証明になった。糞。
会計を終えて、通りに出る。
僕の前を歩く広い背中。
あれだけ重く立ち込めていた雲が消えている。
振り返らずに話す背中。

「エレナーゼは結構好みだ。」
「そうですかそうですか。彼女を好きになってくれましたか」

僕は投げやりになるしかない。なんだこの気持ち。
僕は別に誰を読者にしても恥ずかしく無い物を書いているが、自分の作品に誇りを持っているが、それにしたってだ。そういう問題じゃないだろう。
確かにエレナーゼはあと3話で主人公に告白されるが、あと7話で死ぬ予定だ。ざまあみろ、と思うのもおかしいだろうか。

「エレナーゼが現実にいたらどうします?」
「そうだな、恋に落ちる、かも」

振り返る彼。青空を背景に、綺麗に笑った。

「嘘つき」




手を繋がなかった、キスもしなかった
ただ、話をした、ただ、笑った

本当は知っている

君の事が好きだった
昨日も明日も関係ないくらいに

お題、「愛とはなんぞと問われれば♪」と「まつげ」でした

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