And But Cause I love you


真摯な子供

「いいか?これだけでいい。覚えておけよ。忘れないでくれ。俺はお前のことが一番大切だ。いいな?忘れんなよ?」



***



不愉快だったので、本を読むことにした。
アジトの中。ソファーの上に寝転ぶ。窓の外は黒い雲が空を覆っているし、通りの雑音は耳に心地よい程度に少ないし、風は生ぬるくそれでも質量を持って室内を通っているし、照明は適度に暗く文字を追うには十分だったし、机の上には「新発売!貴方の胃とアミーゴ!」とか銘打たれた変なポテトチップスが口を開けているし、アジトには誰もいないし、面倒な仕事は丁度昨日終わったしで、本を読むにはほぼ最高の環境と言えた。
これで、雨が降っていたら最高だったんだが。
腕を顔の上に伸ばして本を広げる。ゆっくりとページをめくる。物語の半分も進んでいないのに、これで主人公が死ぬのは四度目だ。まぁどうせすぐに生き返るんだろう。
今度はヒロインの涙か、それとも超古代文明の遺産か、三枚目のうっかり心臓マッサージか、それとも全て仮想世界の出来事だったのか。
この本が、世間で評価が高いのかどうかは知らない。知らないからこそどうでもいい。俺には関係ないことだ。
しかし、どういうつもりでホルマジオの野郎はこんな本を買ったんだか。それは気にならないでも無い。あいつの好みはいまいちよくわからない。幅が広すぎる。

「なぁ、ホルマジオ」
「あぁ?どぉしたギアッチョ。なんか用か?」
「本貸してくれ」
「本?」

一瞬怪訝な顔をされたが、すぐに何事も無かったかのように、「あぁー、本な、いいぜ、どんなのが良いんだ?」と聞いてきた。
これが他の奴だとこうはいかない。何故本を読もうとしているのか、理由を聞かれて、喧嘩を売られ、買い、全て終わるころには目的を忘れている。
普段コミックしか読まない俺が、いきなり本を読もうってんだから、何か多少言われても仕方ないと思わないでもないが、むかつくかどうかは話が別だ。
ホルマジオは、その点、良い。よくできた奴だ。このチームにいるのがおかしいくらいに。自虐でも侮辱でも無く本心だ。まぁ、キレた時に一番対処しにくいのもあいつだが。
そういや、あいつが前にキレたのはいつだったか。よく覚えていない。遠い昔だったような気もする。覚えていないんだから具体的な事が思いだせるはずも無い。

「どんなって、どーいう意味だ」
「なんかあるだろ?すっきりしたいとか泣きたいとか。長いのが良いとか短い方がとかよぉ」
「すっきりしたくも泣きたくもねぇ。長いか短いかはどうでもいい」
「じゃ、他には?」

ページをめくる手が止まっていることに気がつく。もう一度眼を落とす。規則正しく並んでいる文字列。
他のことを考えながら本を読める奴を俺は素直に尊敬したいと思う。すげぇことだ。俺にはできねぇ。
予想に反して主人公はまだ生き返らない。だいたい、今までだったら死んでから3ページ以内くらいには復活してたんだが。
蘇りの香とやらが出てきた時点で来るかと思ったが、使われないまま流されてしまった。どういうこった。
ぺらり、めくった先ではヒロインと思しき女が叫んでいた。「出来ると思ったから出来るのよ!出来たと言ってしまえば出来たことになるのよ!文字なんだから!!」
そりゃその通りだ。俺は納得するしかない。これは本であって本以外の何物でも無く本なのだから、文字でそう書かれてしまったらこっちはそれを信じるしかない。
絶世の美少年と書いてあったらそうなんだろうし、涙が出たと書いてあったらそいつは涙が出たんだろう。そういう風に出来あがっている。
しかし、それを登場人物が自分で言っちまうのはどうなんだ?ルール違反じゃねぇのか?
実際、そのヒロインは仲間から非難轟々、とまではいかないまでも反発をくらっていた。「何が文字だ。この世界は本じゃない。起きた出来事を変えられる筈が無いだろう。狂ってしまったのか。」
そいつらの意見も最もなので、俺はそのままページをめくる。めくろうとしたら失敗して手が滑った。顔に落下。いてぇ。
読書が中断された途端に喉の渇きがいやに気になった。そりゃ、こんな濃い味のポテチばっか食ってたら喉も渇くか。
しまった。水も机に用意しておくんだった。自分の迂闊さを呪っても遅いのでのっそりと起き上がる。台所へ水を取りに行く。
面倒なので水道水をそのままグラスに注いだ。何もしていなければ自然と思い出されるさっきの回想。その続き。

「他にはってぇのは?」
「注文だよ。なんもねぇのか?」

眉をひそめながら、それでも何故本を読もうとしているのかを聞かないホルマジオには感心した。こいつはちゃんと面倒なことを理解している。
ありがたくそれに甘えた俺も俺だが。まあ、聞いてきたのはあいつだったんだ。許されるだろう。

「俺が最後まで読める奴がいい」
「そりゃ、お前次第だろうが」
「途中でキレてぶち割らなくても済むような奴ってことだよ」
「あー。んじゃ、とんでも展開は愚か、言葉づかいまで気をつけなきゃいけねぇじゃねぇか」
「本なら少しは俺も心が広くなるぜ」
「普通はそんな所で心の広さのアピールなんかする必要ねぇんだよ。ったく。一気に面倒な注文になったな。他には?」
「あー…。一個だけ」
「言ってみろよ」

我ながら随分と面倒な注文をしたものだ。それは勿論自覚している。しかしその面倒なリクエストに応えてきたあいつもあいつだ。
今のところ俺は飽きることなく読み進めているし、言葉づかいに苛立ったりすることも無い。本が無事なことが何よりの証拠だ。
これなら読みやすいだろうと取り出されたのは冒険活劇。成程。コミックに似ているからという理由だろう。悪くない。
本を渡す時のアイツの台詞は失礼極まりない気づかいに溢れたものだった。「無事に返さなくていいぜ」。
今までの自分の行動を振りかえれば、成程、確かに器物破損率はチームの中でもトップクラスかもしれないが、プロシュートなんかよりはマシだと思っている。
口に出したらどっちもどっちだと笑われることが簡単に予想出来たので特に言い返さなかったが。
ぎしぎしと床を軋ませてソファーに戻れば、時間が経過したせいか、部屋はかなり暗くなっていた。読書には少し向いていない。
昼寝するんなら最適なんだがなあ。
だが幸いにして今はそこまで眠くも無いし、本の続きは少し気になる。点けた蛍光灯は眩しすぎて結局消した。読めないほどでもない。
影になる文字を追う。追う。いつまでたってもヒロインは主人公を生き返らせようとせず、旅が続いていく。想定外だ。
物語が進む。仲間と話す会話は下らなかったり切実だったり暖かかったりイラついたりで、悪くは無い。
部屋の中を吹き抜けていた風はいつの間にかやんでいた。部屋はますます暗くなっていく。ページは進む。あと、八分の一くらいだろうか。
流石にもう読めないかと、本を閉じて部屋の明かりをつけようと立ち上がった。スイッチはドアの隣だ。

「あっれー?ギアッチョ。珍しい。なんでこんな暗い所にいんの?」
「今明かりつけようと思ったんだよ」
「へぇ。じゃあ俺が点けてあげよう。ぽちっと」

ジジ、ジ。死にかけの音とともに電球が光る。ドアの近くで、相変わらずの変態そうな笑みが浮かんでいた。
思わず舌打ちが漏れた。面倒な奴に捕まったと思う。リゾットやらペッシやら、イルーゾォでもいい。そこらへんならマシなんだが。
最も捕まりたくなかった人間に出会っちまった。

「んー?お?それ本じゃねぇーか。めっずらし。何読んでんだ?」
「なんだっていいだろ」
「全然よく無い一つもよく無い。俺の好みじゃなかったら良いことなんて一つも無いぜ」
「お前が読む訳じゃねぇだろうが」
「俺が読む訳じゃ無いからだよ。俺が読むなら俺の好みじゃなくたってなんの問題も無いね」
「そのぶっ飛んだ理論をどうにかしろ」

題名を覗き込まれて、ああ、これか、と軽く頷かれた。知っているらしい。これならいいよ、と意味の分からない許可。
てめえの許可なんぞ求めちゃいねえよと思いながら、追い払う。読んだこともあるらしい。
ホルマジオの野郎、見透かしたかのようなモン貸してきやがったな。気が利きすぎだ。
明かりがつけば、もう立ち上がった意味も無いのでソファーへ逆戻り。座る。寝転ぶ。ページを探す。開く。
これ以上話しかけるなというジェスチャーのつもりだったのだが、気にすることなく話しかけてきやがった。ふざけんな。

「ふーん。ギアッチョがこれ読んでるなんて意外が意外だぜ。自分で買ったの?」
「んなわけねぇだろうが」
「だろーね。ホルマジオだろ。あたり?」
「何だっていいだろうが」

さっき立ち上がって気がついたが、この部屋は随分と冷えていた。俺の影響などでは勿論なく、単純に、夜になったからなんだろう。
木の床が裸足の足に冷たかった。それを感じて、自分が裸足だったということに気がついた。どんだけのんびりしてたってんだ。
メローネが机の上に残っていたポテチを摘まむ。別にもう飽きていた味だ。どうでもいい。問題はそこじゃあない。
止める間も無かった。そのまま本を取り上げられる。そのままパラパラと捲る。もう片方の手でポテチをつまむ。本にさわる。
ページについた油の跡に気がついた瞬間、スタンドがでていた。予想外だったらしい。奴は珍しく慌てた様子で本から手を離す。本は落下する間に凍りついて、そのまま床へ。
ガシャン、とおよそ本らしく無い音を立てて砕け散った。飛び散る欠片。メローネは一瞬顔をしかめたが、すぐにこちらを見た。姿は見えないがベイビィが現れたのを肌で感じる。
外はもう夜になってしまった。聞こえる音は気持ち悪いこいつの声。風はさっきからもう通っていないし照明は明るすぎるしで、読書には全く適していない。

「てめぇはよぉぉ…。なぁんで人から借りたモンだって判ってながらんな扱いできんだぁぁ…?ざっけんじゃあねぇぞ!!」
「おい!待てよギアッチョ壊したのはどう見てもてめぇだろ!」
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇ!!」







「なんつーか、こう、恋だとか憎しみだとか、他人の気持ちっつーのか?考えさせるようなモンが良い」
「考えさせる?」
「哲学的とかそーいうんじゃなくていーんだよ。読んでる最中とか読み終わったあととかによ、なんかを考えるような、そーいう奴」
「思ってたより普通な注文で安心したが、随分とまた抽象的だな」
「あるか?」
「あー…」

しばらく考えた後、渡されたのは中くらいの厚さのハードカバーだった。俺は驚く。あるのか。
自分で言うのもなんだが、俺が壊さないで済むような本と言うところが大分ネックだった筈なんだが。思いのほか早い。
表紙は書店で掛けられた安っちい紙のカバーがかけられていて見えない。タイトルを聞いてみれば知らない名前が返ってきた。

「少し自信ねぇが、まぁ多分大丈夫だろうよ」
「ありがてぇ」
「てめえもなんつうか、律儀だよな」
「あ?」
「こっちの話だ。もうお前にやるつもりで貸すから、無事に返さなくていいぜ」

思い出す。あの時の会話。俺の注文。笑いながら手渡された本。その本を今、俺があいつに手渡している。
貸された物は返さなくてはいけない。そういうもんだ。道理だ。そういうのは重要だと俺は思う。
外は綺麗に晴れ渡っている。読書にはさっぱり向いていないと個人的には思うが、ホルマジオはのんびりと猫を撫ぜながら椅子に座って本を読んでいた。
やっぱりカバーがかかっていて見えない表紙。題を尋ねようかとも思ったが関係無いので止めた。

「ありがとよ」
「おお。どうだった」
「いや…」

答え方に迷う。迷っている間に奴はパラパラとページをチェックして、もう一度チェックして、にやにやと笑った。
その振動で、奴の膝の上から逃げていく猫。

「あ、やっぱお前ぶち割りやがったな」
「は?なんで判るんだ?」
「そりゃ、俺の千里眼さ」
「てめぇの下らない能力を大幅に上回る特殊能力じゃねぇか」
「ひでぇなぁ」

ホルマジオはゆっくりと立ち上がって本棚に向かう。本の高さも作者名も揃っていなくて苛々するが、その実内容ごとに揃っているんだろう。きっと。
こいつはそういうバランスだけやけにうまいんだ。しかし、ブックカバーつけたまんま仕舞って、よくまぁ後から判るよな。
立ち上がった事によって判ったが、こいつの机の上にあるパソコンは電源が点いていた。どうやら何か解析しているらしい。
まぬけな猫の鳴き声が聞こえて、すわさっきの奴かと思えば、目の前のパソコンだった。作業が終わったと、無機質に表示されている。
本を読みながら作業できるヤツってのは、すげぇ。素直に評価しよう。

「こぼしちまったんだよなぁ」
「はあ?」
「最後の方のページに。コーヒー」

ほれ、来いよ。そう、猫に伸ばされた手は無視をされて行き場を失っていた。苦笑を浮かべるその顔。どうやらコーヒー犯人はこの猫だったらしい。
構わないと拗ねる癖に、構うと来ねえんだよなあ、と笑う。そこで笑えるんならテメェはよっぽどの親ばかだと投げやりに言えばまたニヤニヤと笑われた。
機嫌が良さそうに、本をしまった本棚を指す。

「さっき見てみたら染み一つ無い綺麗な本になってたぜ。ありがとよ」
「てめえ、まさかそこまで予測して渡しやがったのか」
「自分で買った本をもういっかい買い直すってのは、なんか悔しくてなぁ」

別にお前を陥れようとしたわけでも無し、良いだろう?そう朗らかに笑われてしまっては言い返すこともできない。弁償しろと言ってきたわけでも無し、割ったのは確かに俺だ。言い訳の余地は無い。
嫌、俺が壊すと判っていての「無事に返さなくていいぜ」なら、それはやっぱりキレてもいいんじゃないかと思った。
しかし駄目だ完全にタイミングを逃した。あんまりにも明るく笑われるから気概もそがれる。糞。

「で、どうだった?」
「後味悪過ぎだろ」

せめてもの抵抗にぶっきらぼうに答える。俺はちゃんとあの後、本を買い直しに行って、残っていた部分を読んでみた。
驚くべきことに、旅の目的を終えるまで主人公が生き返ることはなかった。この苦しい旅をわざわざ生き返らせて行わせる事は残酷なのでは無いかと迷った結果。らしい。
だがヒロインはそれでも逢いたかったらしく、しかし旅が終わってから蘇らせたら主人公は自責の念に駆られるのではないかと心配し、苦悩する。判らないでも無い。
結局こいつは仲間と共に悩みに悩み抜いた末、途中に出てきた復活の香とやらで主人公を呼び戻していた。
そして、失敗していた。
ドロドロに溶けたゾンビが、虚ろになりながらヒロインに襲いかかり、ヒロインは悲鳴を上げながらゾンビを叩き潰し、仲間たちに助け起こされ。
「共に行きたかった」と最期に一言残し崩れ去ったゾンビの前で立ち尽くすとか、そんな最後。正直不快で仕方なかったが、矛盾は無かったので俺がキレることも無かった。
「これが物語なら、誰か書き加えて。その後私達は立ち上がり、苦難の末にもう一度友と出会い、皆で幸せに暮らすのです、と」。そんな台詞で締められていた。
その台詞で締められていたから、その後の文章は一つもなくて、つまり作者はそんな締め方をするつもりは無いのだと暗に言っていた。
もやもやと、不愉快な中途半端な感情だけが残る終わり方。もう断言できるが、これは絶対に世間一般での評価は高くない。確実だ。むしろ底辺だろう。

「なんでよりによってあんなの渡しやがった」
「お前が特に何も注文しなかったからな」
「それにしたって限度があるだろーよ」
「これに懲りたら今度からちゃんと言えよな。あんな条件で探すの、結構難しいんだぜ?」
「そういや、メローネの野郎も知ってたみたいだが」
「そりゃ、貸したの俺だからな」
「はあ?!」

カラカラと、胡桃のように笑って、ホルマジオはパソコン画面へ戻った。こいつも、なんだ、やっぱり、いい性格してやがる。分かり切っていた事だった。
何もかも見透かしたような態度で何もかも見透かしてやがった。まともな奴がこのチームにいる筈ねえよな。畜生!
苛立ち紛れに、大きな音を立ててドアを閉めた。でも多分、俺が本を借りるとしたらやっぱりまたアイツなんだろう。
メローネの趣味は当てにならねえし、プロシュートは読んだ瞬間に本を捨てちまうし、イルーゾォのは俺の感性に悉く合わねえし、リゾートの本は難解すぎる。ペッシが読んでるとこは見たことねぇ。
ドアの向こうで、あいつはまた猫を撫でながらパソコンに向かっているんだろうか。こんな晴天に。



「コーヒーの染みの跡に気づいてないってことは、あいつ最後のページまで読む前にぶち割ったってことだよなぁ…。ってことはメローネの落書きにも気づかなかったわけだ」

パラララ、と軽い音で打鍵する指。ふ、と止まって本に手が伸ばされる。画面上ではまた何かの解析が始まっていた。
メローネから返ってきた時、最後のページに書き加えられた、美しいが踊っているような矛盾に満ちた形の字を思い出してホルマジオは笑う。
まさか貸した本に書きこんでくるとは思わなかったから、何度も確認してしまった。その落書きの文言。今じゃあ空で言える。

「『その後私達は立ち上がり、苦難の末にもう一度友と出会い、皆で幸せに暮らすのです』」

いやぁ、しかしまったく、人の本に書き込むなよなぁ、と笑いながら、まっさらになった本を見つめる。何の書き込みも成されなかった本。
まだまだ相互理解には遠いなあ、と楽しげに目を細めた。いや、どちらがどちらに歩み寄るにせよ、周囲に迷惑なことに変わりはないか。
ギアッチョも律儀だ。別に、理解しなくても歩み寄ることは出来るのに。形式を重視しすぎるんだアイツは。いつになるんだろうなぁ。
そこまで考えて漏れた笑い。いやぁ、俺もたいがい、親バカだ。その通り。
そうして彼は鼻歌を歌いながら、新品の本の存在を意識から外した。



***



「なぁギアッチョ」
「なんだ変態」
「覚えておいて欲しいことがあるんだ」
「なんだよ」
「いいか?これだけでいい。覚えておけよ。忘れないでくれ。俺はお前のことが一番大切だ。いいな?忘れんなよ?」
「なに気持ち悪いこと言ってんだ」
「一つも気持ち悪くなんかねぇぜ。んで、全部気持ち悪くたって構わない」
「意見をまとめろ」
「俺は、お前が一番好きだ。つってもチームのメンバー全員だけどな、同着一位なんだからお前を一番って言ったって間違いじゃねぇはずだ。だろ?」
「そりゃ、言葉は間違っちゃいねえかもしれねえが、正誤うんぬん以前の話だろ」
「そのとおり。正しいとか間違ってるとかじゃない。これは愛の問題だ」
「いや、そんな問題じゃあねえだろ」
「いいか?お前が俺をどう思ってるかはこの際どうでもいいんだ。俺がお前を同着一位で一番に好きなこと、忘れんなよ」
「なんでだよ」
「誰かの一番になりたいだろう?誰だって。お前らのことは俺が一番に思ってやるから心配するなってことさ」
「嫌に決まってんだろ」
「なんでさ」
「なんで俺の限られた記憶力の中で、んな面倒くさくて重いことをずっと忘れちゃいけねえんだよ」
「成程。確かにそりゃそうだ。じゃあしょうがねぇ」
「おい、本当に意味わかんねぇぞ」
「そりゃ、お前の読解力が無いせいだ」

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