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流れていく星、雨空(お題はきうたんから!ありがとう!)




スージーQは世間一般でいう所の「ちょっとぬけてて」「バカで」「かわいい」「女の子らしい女の子」だった。その評価を受ける時、彼女は少しむくれてみせるけれど、内心では、その評価を不当なものだと思ってはいなかった。自分がドジで、よく細かい失敗をして、たいして教養が無いということを彼女はちゃんとわかっていた。自分の感情に素直な彼女だからこそ、自らのことを誤魔化したり等はしなかった。
だから彼女は、自分が決して鈍い人間ではないということもちゃんとわかっていた。自分の感覚の鋭敏さを自覚していた。わざと何もわからないふりをして誤魔化すような、そういう女の子にゆるされた狡さが彼女は嫌いだった。そうやって逃げ出すことが大嫌いだった。だから彼女は、ただ彼女のことを「女の子らしい女の子」としか見ない男の子達に対して舌を出す。何もわかってないのね、と。
そこのところで言うと、彼女の旦那は実に良く彼女のことを理解していた。決して、「ただの馬鹿で可愛い女」とは見なかった。彼女のその性格を理解した上で「オメェーは顔が良いから好きだぜ!」と飄々と言ってのける天邪鬼さを持っていた。大切な場面でもふざけるし真剣な人をおちょくったりした。けれど、本当に忘れてはいけないことは忘れない人だった。スージーQとどんなにくだらない喧嘩をして、それが天地をひっくり返すような争いに発展したとしても、そのあとのキスを決して忘れないような、そういう人だった。だから彼女は考える。彼と比べたら、確かに私は馬鹿なんだろうな。

「ねぇジョセフ」
「あ?どぉーしたよ変な顔して」
「私がたぁーいせつに取っておいたリキュールがすっからかんになってるんだけど?」
「ゲ」
「まだ半分は残ってた筈なんだけどなぁ〜」

後生大事にとっとくもんじゃねぇだろ〜。残しとく方が悪いんだぜ〜。そう笑いながらジョセフは逃げる。スージーQは本気で怒る。今日のお夕飯作ってあげないからね!という。けれど時間になればスージーQはちゃんとジョセフの分の夕飯も食卓に並べるし、彼は小瓶の酒を買ってくる。決して同じ銘柄ではない、だけど彼女の好きな、甘い酒。





二人が結婚して数年が経ち、あまりにも呑気で穏やかな日々の中で、一つ大きなニュースが届いた。明後日の?、流星群が見られるというのである。その話を聞いた時にスージーQの頭によぎったのは喜びというよりは感傷に近い胸の痛みだった。彼女は覚えている。二人が結婚してすぐのこと、同じように流星群が降るというので二人は屋根に登って夜通し眺めていたのである。今でもスージーQはその夜のことを思い出せる。



「ねぇねぇ見てジョセフ!あそこ!流れたわ!」
「上の方でも流れてるぜ」
「え?!あ、ほんと!」
「ほれ、あっちも」
「すごいすごい!!」

金の軌跡を描いて一瞬で消えていく。美しくも物悲しい景色が視界いっぱいに広がっていた。けれどその時スージーQは、どうして悲しいのか、それがあまりよく判らなかった。美しいだけの金糸に、何故こんなにも泣きたくなるのかよく判らなかった。

「ねぇジョセフ」
「ん?なんだ?」
「なんでこんなに綺麗なのかしら」

そりゃあ、消えるからさ。
陽気に答えた夫のその答えに彼女は納得した。ストン、とその答えを胸の中に収めた。消えるから。消えていくから。もう二度と、見れないから。
彼と彼女が大好きだった、彼と彼女が愛した美しい友人の、その陽に透けた髪の毛に、この夜の星はとてもよく似ていた。
彼女は首が痛くなるほど夜空を見上げた。次から次へと夜空からこぼれ落ちる星をただただ眺めた。決して隣を見なかった。陽気な声がどんな顔をしているのか彼女には分かっていたから。彼女は、バカで、ドジで、そうして人の気持ちが判る女の子だった。



明後日の晩、また流星群が見られるという。彼女は、三回瞬きをして、首を少し傾げて、お財布を持って買い物に行くことにした。美味しいお酒と、チーズと、それからシャボン液を買いに。二人でシャボン玉を吹きながら流れ落ちる星を見よう。この胸の悲しみにはきっとそれが必要なのだ。彼女はそれがちゃんと判っていた。彼女よりも頭の良いお調子者の夫は、それを見てきっと笑うだろう。全部全部理解して、そうしてきっと笑うだろう。あの夜、陽気に泣いた彼はきっと笑うだろう。買い物かごにはいつかのリキュールと、彼が好きな少しキツめのイタリアンチーズ。涙の言い訳のシャボン液。金色の光と一緒に、目に染みる。



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