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和室萌え花承

これはどうしたことだろう。頭はさえざえと澄み渡っているのに、目の前の現実だけが覚束なかった。ふすまを開けたその姿勢で彼は、承太郎は、かれこれ一年ほど動きを止めている。もはやすべての結論が彼の中で実を結び解答を示しているというのに、体は髪一筋も動かない。視界に訴えかけている筈の情景は一枚の写真のように微動だにせず、彼の体もそれに合わせて動きを止め、宙に舞う塵一つすら地面に届かぬまま、膨大な時間が経過してしまった。
時が止まっているようだと、承太郎は考えてその思考の悪趣味さに僅かに一つ瞬きをする。それが震わせた空気が、結果として彼に呼吸を思い出させた。静かに吸った空気は、湿っぽく黴臭く、何よりも濃厚な血の匂い。彼が見下ろす先、静かな表情で畳に横たわる花京院。この四畳半の静寂にふさわしく、何の色も見せないその顔と対照的に、その腹から流れ出した血は生々しい赤を乾かすことが無かった。部屋の内側に飛び散った血だけが酸化してどす黒い色を晒している。固定された絶望がこの部屋を保っていた。世界の終りが畳に染み付いていた。永遠を誓うかのように二人はずっとこの真四角なふすまの内側で固まっている。承太郎は花京院を見下ろし続ける。花京院はただ目を閉じている。あと何年すればこの夢は終わるのだろうと、絶望を肺腑へ吸い込みながら承太郎はふすまを閉じることができない。

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