ホンテトマンション高緑













ああ、パレードの時間になったのか。
まばらになってきた人影を見て、俺はそれを理解する。空はもうとっくに暗くなっていた。園内が明るいから星は見えないが、澄み渡っていることはよく判る。
人気のアトラクションも、夜、光り輝くパレードの時間になれば少しは余裕がでる。昼間の百二十分待ちが嘘のように、お客さんは次から次へと、余裕の出た広間へと案内されていた。

「お疲れ様」

軽い音、軽い声。またかと思ってその方を見れば、滑らかなスケートの音と共に、高尾が笑顔でやってきた。毎回毎回、俺が外で入場整理をする時間を見計らって、人がいないのを見越してやってくる。暇なのか。

「……ようこそ」

客がまばらとはいえど、ゼロという訳ではない。対応に困ってぶっきらぼうに返せばからからと笑われた。どう考えてもお前は職務怠慢だし、見つかれば叱られることは間違いない。

「あれ、お兄さん二人仲良しなんですかー?」

案の定、空いているのを見越してやってきた一固まりの女性が笑いながら声をかけてきた。これだから嫌なんだ、と思いつつ、返答に迷っていればとなりからまた軽薄な声。

「いやー、そうなんですよ! このお屋敷からはよくお洋服とかこまかーい白い灰みたいなのが出てくるので、それを夢のカケラにするためによく来るんです。楽しそうなお屋敷なんですけど、でも、いっつも入っていく人ばっかりで、出ていく人を見ないんですよね…。そういえばこの前入っていった子のお洋服、この前ゴミ箱に入ってたような……」

よくもまあここまで口が回るものだ。呆れた瞳で見るが、一つも笑顔を崩さない。どう考えてもこいつがキャストになるべきじゃないだろうか。うわー怖いー、と笑う集団は実に楽しそうだ。

「ね、お兄さん、本当にはいってきたら出られないの?」

そんなことあるはずが無い、と知りながらにやにやと尋ねられる。大人というのはこれだから厄介だが、夢に憧れている人に大人も子供もないのだろう。

「さあ、お屋敷が楽しすぎて、皆さん出てくるのを忘れてしまったのかもしれませんね」

お気をつけていってらっしゃいませ。そう僅かに頭を下げれば、何故か黙り込んだ集団は顔を見合わせてそそくさと先へ消えていく。失敗してしまったらしい。
少しはこいつを見習うべきなのだろうかと、隣に立つ高尾を見れば、呆れたような瞳で迎えられた。

「真ちゃんほんっと女ったらし…」
「はあ?」
「これだから油断できないんだよなー、もうさあ…」

ぶつぶつと、わけのわからない言葉を連ねられて、顔をしかめる他に無い。何を言ってるんだこいつは、と思いながら、意識を外して次のお客さんへと向かう。まだあどけない、五歳ほどの少女が、親に連れられておずおずと歩いて来ていた。

「どうしましたか、お嬢さん」

だからなんでそこで膝を立てるの目線を合わせるの、真ちゃんそれ完璧に執事だから!
意味のわからない叫びが隣で聞こえてくるが無視をする。実際俺はこの幽霊屋敷の執事なのだから。





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