ジャンクルパロ高緑












「あ、あぶなああーーい!皆さん、伏せて下さい!」

大人も子供も、皆笑顔を浮かべて、ノリの良い人はキャーなんて可愛い悲鳴をあげながら頭を下げる。作り物のインディアン。機械で流す川。だけどそれだって、信じればアマゾンの奥地になるし、プラスチックの金貨が魔法のアイテムになる。人工的なジャングルは、今日も蒸し暑く探検家達を迎え入れる。
思い切り船の舵を切りながら、俺の正面、一番遠くに座る男をにやりと見た。一人だけむっつりと無愛想な顔のまま、それでも俺の指示に従って、頭を下げていた。その拍子に揺れる緑髪。
真ちゃん、休憩中とはいえ、キャストとしてその表情はどうなの。
 
「いやー、危機一髪でしたねー。って、お客さんの中でいなくなっちゃった人とかいません? いたら…」

ぺらぺらと喋ればくすくすと女子大生から笑いが漏れる。もしかしてお姉さんの彼氏いなくなっちゃいました?! と声をかければ、最初からいませーん、と明るい返事。いいね、ノリの良い子って大好き。
にこにことその娘達の方を見ながら、俺の視界の端には真ちゃんが映っている。ああ、視野が広くてよかったって思うのはこういう時だ。さっきまで無表情だって真ちゃんが、ホンの少し不満げな顔をして、じいっと俺のことを見ている。あああかわいい! 抱きしめたい! 夢の国は同性婚オッケーだろ?!

「おっと、洞穴ですねー、いつもこんな所にあったかなー、うーん、ちょっと寄り道しちゃいましょうか」

帽子を被り直して先へ進む。遺跡に入る。暗くなる。こんだけ暗かったら、いちゃついても少しはごまかせるよ。だからそこのお兄さん、そわそわしてないで手を繋いじゃいなよ。

「それではみなさん、また一緒に冒険しましょー!さよーならー!」

ざわざわとお客さんが降りていく。揺れる船の上で、俺に大きく手を振ってきた男の子に敬礼した。違和感が無い程度に、お客さんがはける中を俺の方に向かってくる真ちゃん。さっきの可愛い顔はもう消えて、またいつものむっつりとした顔になっている。

「お客さんどうしましたー? あ、まさかジャングルに忘れ物?!」

おどけて言えば、小さな紙片を素早く渡される。ありがとうございました、と他人行儀に言われて、そのまま船を降りていった。
残念、もっと絡みたかったのに。まあ、実際無理だけどさ。
笑み混じりに開いたメモ帳は、真ちゃんのいるショップの物で、几帳面な字とミッキーのギャップに笑う。
『午後の予定が無くなった。イクスピアリで待つ。携帯を忘れたから、お前が見つけろ』

さて、今日真ちゃんは早上がりで午前で終わりのはずだ。午後からは中学のチームメイトと食事のはず。それが某かの用事で無くなったんだろう。ちなみに俺は夕方上がりなのであと三時間。
突如降って湧いたデートの約束に、俺は顔が緩むのを隠しきれない。だって、なあ。別にわざわざ船に乗り込んで俺に会わなくたって、いくらでも他の奴に託せただろ。顔見知りいないわけじゃないんだし。そんなに俺に会いたかったの。
次のお客さんが乗り込んできて、俺は上機嫌で案内を始めた。ようこそ楽しいジャングルツアーへ!ここでは皆さんを、冒険の……

さて、ジャングルには猛獣がいるということを、真ちゃんは忘れていないだろうか。こんなほいほい来ちゃってさ。絶対逃がさないからな!





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