マジカル高尾!!








ワン・ツー・スリー!
その掛け声は一体全体いるのだろうか?内心で疑問に思いながら、緑間は目の前のウインナーが軽い音を立ててタコ形になるのを見ていた。

「……そもそもその魔法はいるか?」
「え?!タコの方がかわいくね?!」
「……それは、まあ」

思いのほかショックを受けた表情を向けられて、緑間は思わず頷いてしまった。実際、そんなに興味は無いのだけれど、それを正直に言うには憚られる顔だった。カニにはならないのか、と尋ねれば、それはまだ練習中だと返される。ウインナーだから同じというわけにはいかないらしい、と、早速タコ型ウインナーを頬張りながら緑間は考える。彼のお弁当箱の中で、ウインナーはタコの形になり、リンゴはウサギの形になり、プチトマトに刺さった爪楊枝はカラフルなプラスチックの飾り楊枝になっていた。

「……お前の魔法は弁当限定なのか?」
「いや?そんなこたねえけど」

そもそも魔法、という言葉を当たり前のように使う日が来るとは思わなかった、と緑間は思う。いや、今でも違和感は残る。しかしそれをいちいち指摘していては話が進まないどころか弁当を食べることもままならないので、彼はもう諦めていた。窓際。ひとつの机を二人で挟んでいつものように弁当を食べる。ラッキーアイテムの起きあがりこぼしが二人を見守る。

「どう?うまい?」
「それはまあ美味しいが…」
「ま、別に俺が料理したわけじゃなくて味は真ちゃんのお母さんのやつなわけですが」
「……だろうな」

そんなことを言う高尾の弁当はパンである。焼きそばパンと、卵サンドと、リンゴジュース。
栄養の偏っている食事に緑間は眉をひそめた。人の弁当をデコレーションするなら、自分の弁当に栄養を追加する魔法でも覚えろと思う。実際、それを覚えれば相当楽だと思うのだが、どうやら高尾にその発想は無いらしい。一度言ってはみたものの、「あ、そーいう小難しいのは無理!」と笑顔で流されてしまった。難易度の基準が、緑間にはさっぱり判らない。
眉をひそめたまま、緑間は自らの弁当箱を高尾の方へ寄せる。疑問符を浮かべた高尾に一言、「食べろ」と告げた。

「え、いやいやこれは真ちゃんのっしょ」
「全部はやらん。野菜くらいたべろ」
「えー、真ちゃんがあーんしてくれたら食べる」
「馬鹿か」

苦々しく吐き捨てた緑間に、高尾はけらけらと笑った。彼が嫌がることなど想定の内である。高尾は別に緑間の弁当がもらいたくて魔法をかけていたわけではない。こう言えば緑間が引き下がるであろうことは予想済みだった。
予想は予想でしか無いのだと、二秒後に彼は思い知ることになる。

「これくらい自分で食え」
「え」

器用につままれたブロッコリー。箸で挟んまれたその彩りが高尾の前に差し出されている。え、何、待って、こんなことあっていいの。
魔法だなんて非現実的なものをあっさり使う彼は、目の前の現実に全く対応できない。柄にも無く頬が熱くなるのを感じる。何も変わらないのに、ひたすら瞬きを繰り返した。

「高尾?……おい、高尾!お前何を出してる!」
「へ?え?あ?!」

ぽぽぽぽ、と高尾の周り、空中の何もないところからきらきらと何かが飛び出してくる。色とりどりに光る、ちらちらとまたたくそれは

「こ、こんぺいとう…?」

若葉色やレモン色、ミルク色、桜色のこんぺいとうが高尾の周りからころころと出てくる。慌てて両手を振り回すけれど、こんぺいとうは止まる気色を見せ無い。

「ど、どうしよう真ちゃん!」
「取り敢えず食べろ!!」
「はい!!」

差し出された箸の先、こんなことになっても律儀に差し出されていたブロッコリーをパクリと食べる。パクリと口に含んで、高尾は我に返る。あれ、今、俺。
ぼん、と大きな音がして、周囲の目線が二人に集まった。そこには顔を真っ赤にした高尾と呆然とした顔の緑間。何故か散らばるこんぺいとう。
二人のあいだに出現した、大きなタコウインナーのぬいぐるみ。
ああ、またあのふたりが騒いだのかと周囲はすぐに意識を逸らした。あのおかしな物体は、緑間のラッキーアイテムだろうと。

「……高尾……」
「ご、ごめんね?」

タコウインナの口からは、ポロポロと小さな花が発射される。ひらひらと待って、空中で溶けて消えていく。

「……かわいいよね?」
「……、まあ、そう、だな」

なんとなく気恥ずかしい沈黙の中で、ぽこぽことタコのぬいぐるみだけが花を空中に乱射していた。ぽこぽこと。とめどなく。



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