快適な眠りを貪るにはあまりにも不愉快な重量に、宮地は無理矢理瞼を開けた。白く霞んだ視界の中で、自分よりも大柄な緑髪が腹の上にいる。
無理矢理首を動かしてその手の先を見れば、コンドームとローションの安いパッケージ。あからさまなサインに、そういえば最近していなかったなと宮地は思い当たる。
普段そういった行為に積極的な姿勢を見せない緑間が自分の上にのっているのを見て宮地は眉を潜めた。
「おい、緑間」
「……」
「おい、何してんだ」
「…………」
「どけ」
「どきません」
緑間がどういった顔をしているのか、真っ暗な部屋の中では見えない。窓から差し込む街頭の明かりもベッドの上に斜めに差し込むだけで、その表情を照らすには足りなかった。
ただ声が思いのほか平静だったので、嗚呼コイツは本気なんだなと、頭の片隅で思うだけだ。
何時の間にか剥ぎ取られた毛布は足元の方でわだかまっている。いくら暖房が効いているとはいえ、冬に何の容赦もなく人の布団を引っペがす横暴さ。いや、寝ている人間を襲おうとしている段階で、今更議論するようなことでも無いのだろう。
「シてえの?」
「……」
「いやそれくらい答えろや」
「あなたが疲れているのは知っています」
聞いてねえよ、と宮地は毒づこうとしたが、寝起きの口の中は乾いていてうまく罵声を吐けなかった。彼は酷く疲れていた。体力があれば、上にいる我侭な恋人を跳ね除けて押し倒してやっても良かった。ただ、彼は、酷く、疲れていた。目は眠気のあまり今にも閉じそうだったし。口は老人のようにゆっくりとしか回らなかった。腕を持ち上げるだけの労力も払えなかった。それは緑間の言うとおりだった。
「だから、寝てていいですよ」
「はあ?」
「俺が勝手にやります」
不穏な言葉に、どういう意味だ、と宮地は問いただそうとした。けれどその問を発する前に、緑間が宮地のジャージに手をかけた。何をやってる、と頭を叩こうとした。腕はやはり、持ち上がらなかった。それを実行する前に、宮地の物が柔らかい感触に包まれるのが判った。普段は絶対にやろうとしないにも関わらず、である。粘着質な水の音がする。下品な音だ。どんな顔をしているのだろうと、宮地はようやく目を瞬かせた。起きることを決めた。全く慣れていない癖に「勝手にやる」なんて生意気な台詞を吐いた、全く可愛くない後輩を、けれど可愛がってしまう恋人の要望に応えることを決めた。
「下手くそ」
不満気な顔をした頭を叩く代わりに撫でて、小さく溜息をつく。
明日のことは明日にしよう。今は今だ。生きろ若人。熱のままに。



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