はて、もしかしてこれはラッキースケベというやつなのだろうか。
俺の下で不機嫌そうな顔をした真ちゃんが涙目で俺の下で俺を見上げて涙目で見上げていてつまり今俺の下では真ちゃんが涙目で。
押し倒されている。
誰もいない部室。宮地さんですら先に帰ってしまうほど遅く。俺と真ちゃんの二人は居残って練習を続けていたのだけれど、そしていい加減切り上げないと守衛さんに怒られてしまうことに気がついて、慌てて着替えていたら練習しすぎてフラフラになった俺の足が汗で滑って転んでその時に真ちゃんを巻き込んで。
今に至る。
俺は冷静に現状を把握。ここに至るまでに俺にやましい気持ちなど一つもなかった事を確認。真ちゃんが涙目なのは頭を床に打ち付けたからで、頬が赤いのは練習し終わったばかりだからで、少しズレた眼鏡は衝撃のせいだ。高尾和成、悪くない。いや、コケたのは悪いけど。でもそこに悪意なんて一つも無い。
じゃ、なんで俺今こんなに心臓ドキドキしてんの?
ぐるぐると頭の中で回る言葉。俺。真ちゃん。涙目。赤い頬。かわいい。真ちゃん。眼鏡。いじめたい。高尾。かわいい。真ちゃん。俺。衝撃。高尾。高尾?

「…! 高尾!!」

右の頭に軽い衝撃。我に返ってみれば本当に不機嫌マックスっていう顔した真ちゃんが俺のことを見上げている。
「いつまでほうけている。いい加減に除け」

台詞を噛み切るようにしてキスをした。目を白黒させて俺の背中を叩く真ちゃんの腕を抑える。少し塩からい気がするのは、汗のせいだろうか。シャワー、浴びたハズなんだけどな。

「んっ…ふ」

熱い息が漏れる。どうしよう。止まらないんだけど。あ、でも、真ちゃん、息苦しそう。

「……大丈夫?」

名残惜しく離れれば銀糸が伝う。がっつきすぎたかな。
ねえ真ちゃん、その涙目はなんで? その赤い頬はなんで? どうして俺の下にいるの? どうしてろくな抵抗しなかったの?

「何が、大丈夫、だ…!」
「うん」

でも真ちゃんが最後のきっかけ作ったんだぜ? 真ちゃんにぶっ叩かれた脳みそは一番最初を思い出した。


はて、もしかしてこれはラッキースケベというやつなのだろうか。


一番最初の俺はしっかり判っていた。馬鹿みたいだろ?あの瞬間俺はラッキーだと判っていたんだ。最初が肝心。最初が答え。ねえ真ちゃん、俺どうやらもっと真ちゃんとえっちなことしたいみたいなんだ。嫌だったら今すぐ言ってね。正直もう止められそうにない。

「馬鹿が」
「うん」
「順序があるだろう…!」

嗚呼神様! 真ちゃんの涙目の意味と赤い頬の意味を俺は理解した。これは勘違いじゃないんだろう!

「真ちゃん、好きだよ!」





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