And But Cause I love you


汚泥の宝石

色とりどりの様々



***



散り散りに散らばる宝飾の数々を、蜘蛛の子を散らすようだと表現したコイツには圧倒的にセンスが壊滅している。そう思う。
この華やかなきらめきと放つ風格と圧倒的な存在感を、蜘蛛の子だと。蜘蛛の子だと。馬鹿じゃねぇーの。
もっとツクシー表現の仕方を考えろと言えば、困った表情で、夢のようだ?と首を傾げた。アホ決定。よりにもよって夢なんて単語を選ぶかね普通。

「夢は金じゃ買えねだろ」
「意外とロマンチストだな」
「お前にロマンが無さ過ぎるだけじゃね」

ロマンっつか、モラルな。付け加えれば、流石に酷いと降参された。浮かべる苦笑の形はさっきと変わっていない。
溜息をつけば悪かったよと、たいして悪びれていない声で謝られた。許さねえといえば困ったなとまた笑い返される。むかつく。
というより、こいつは俺に対して申し訳ないと思っているだけで、自分のセンスが最低最悪沈没であることを謝っているわけではないんだろう。そこだ。そっちを謝れ。
謝るっていうのは自覚するっていうことだから、それなら俺は許してやらんでもないと思う。まずは自覚しないと直すもんも直せない。
ていうか、直す気が無いだろこいつ。ふざけんな。ふざけんな。そんな上っ面で謝られたってムカつくだけだっつーの。
んなもんは嘘つきと一緒だ。無自覚な嘘つきというのは質が悪い。最低にほど近い程度には最低だ。つまり最低だ。不愉快極まりない。
そこに悪意が無いことだけが唯一の救いだけども、悪意がないからこそより性質が悪いっつー意見もあるだろう。
纏めて言えば、こいつは馬鹿だという、それだけの事な訳だが。誰だこいつの頭が良いとか言ったやつ。何にも判っていやしねぇ。

「サニーのセンスが良いとは思ってるけど、お前に似合う物は僕には似合わないよ」
「アホ馬鹿糞ポイズン。似合わね物を着るんが見苦しいってことくらい俺が一番よく判ってんだよ」
「そりゃ、失礼した」
「物だけで選んでると思ってたのかよ」
「ごめん違うの?」
「その無駄に視力の良い目は穴ばっかか」
「そうかな」
「そうだっつーの。お前、なんも見てねーのな」

それを言われるとつらいな、と、もうこれで何度目だか判らない苦笑を返された。ええい、だから、だったら直せと思う。一つも美しくない。
その視力は一体全体なんのためだ。いや、こんなにも鈍くて馬鹿なこいつだから、神様は憐れんでこいつにこんな力を与えたのかもしれない。
これで常人並の視力しか持ってなかったら、どこまで鈍くなると言うのだろうか。気合入れて想像してみたら、恐ろしい。恐ろしすぎた。
きっとこいつは目の前で水晶のように輝く雨が降って来ても、黄金の風が吹いても気がつかないんだろう。ありえん。人生を自ら溝に投げ入れている。
そのくせ、人の感情の機微には鋭いってんだから恐れ入る。鋭いくせに対処法が不器用っていうのがまたこいつの愛すべき駄目な所だ。
愛するべきではあるのかもしれないが、俺はちっともそんなつもりにはなれないので、まあ、言葉の綾だと思う。

「調和だよ調和。お前に似合ってないもん買ってどうする」
「これ、似合ってる?僕に?」
「俺のセンスにケチ付ける気か?あ、おねーさん、これワンサイズ下げた奴と、こっち色違いd37番。よろしく」
「かしこまりました。そちらの方にとてもよくお似合いです」
「だろ。カードで」
「ありがとうございました」
「おいサニー。お金は僕が払うよ」
「お前が仕事してるとこ引っぱり出してお前に払わせるとか一つも美しくねーし」
「だけどな」
「となしく好意に甘えるってことを覚えろ」

黙ったのをいいことにそのまま会計を済ませる。次はあそこな、と美しいガラス張りのビルをさせば呆れた顔を向けられた。
なんであの美しい建物を見てそんな顔が出来るんだか。有名デザイナーが作った、洗練された、そして独創的なデザイン。
ガラスの乱反射が店内を照らしているのが外からでもよく判る。今は陽に透かしたイチョウのような、輝く粒子の黄色。
陽の指す時刻ごとに色を変えて、雨の日には海に沈んでいるかのような色合いに変わるその姿。それは天然物のガラス貝でしか出せないもんだ。
そいつでこのビルをまるまる全て覆っている。更に柱には金糸シャボンが埋め込まれて、建物に入らなくともその外観だけで一つの美術品のように美しい。
磨き上げられた、一点の汚れも無いその壁から見えるディスプレイは、質の良さと相まって上品な、それでも誰にも媚びない態度で、自らに似合う物を待っていた。
食材が人を選ぶと松は言っていたが、美しいものだって人を選ぶと思う。その点では、完全に同意しよう。食材が美しいとは限らないのが難点だけれども。

「あそこ行くの?」
「今日のメインだぞ」
「これだけ買ってまだメインに到着してなかったのかい…」

まるでさも自分が正しいとでもいうかのような顔を向けられたが、そういったってまだ紙袋六袋分くらいだ。
俺は手当たり次第に何も考えず買ったりするのは嫌いなのでちゃんと厳選している。そんな表情を向けられるのは心外だ。
そもそも、お前にちゃんとした服が少しでもあったら、それに合うように買い足せばいいだけだったのだ。皆無だからこんな羽目になる。マジでねぇよこいつ。
なんで美しいものに手が届く位置にいて、それに手を伸ばさないんだ。意味が判らん。
あーあーあー。全く。その点でこいつは一つも判っちゃいない。こんなにも美しい空が広がっているのにあんな辺鄙な場所で閉じこもって占いばっかしやがって。
何故こんなにも高い青と降り注ぐ温もりと露を弾く瑞々しい緑を見ようとしない。引きこもりめ。あほか。アホだ。
ただ阿呆なだけなら放っておくが、超ド級に輪をかけて阿呆なのでそういうわけにもいかない。
こんなやつでも幼馴染なので、精神的にも完璧に出来あがった人間である俺は、こうやって気分転換にこいつを連れ出してやっているのだ。
まあ、こいつのあまりにもあんまりなセンスについに耐えきれなくなったというのが正しいけれど。俺に対して喧嘩を売っているのだろうか。

『よ、ココ』
『やあ、久しぶりサニー。いらっしゃい。丁度昼休みなんだよ』

別に、こっちだって仕事の邪魔をしてまで連れ出そうとは思わなかった。そんなのはあまりスマートとはいえない。
事前にアポを取って、時間丁度に、判り易くかつ空いている場所で待ち合わせ。それが最も美しい手順だ。
ちゃんとした用事なら、な。今日はたまたま近くに寄ったから少し顔を見ていこうと、本当にその程度のつもりだったのだ。
だからココも、俺が来ることは判っていたとしても、特に構えること無くいつも通りに待っていたのだろう。そのいつも通りが最低だった。それだけだ。
占いの昼休み。顔を見せて少し話をして、休み時間が終わったら消えてやろうと、そう、思っていたのに。
出迎えたこいつを見た瞬間に店のドアをクローズに変えてしまった。咎める声を無視して無理やり引っ張って連れ出してしまった。
いつもの黒のバトルスーツ。それに少しでもおしゃれのつもりなんだか知らんが、いくつかの羽のアクセサリーと指輪。それだけ。
そもそもあのバトルスーツがダサい。似合っていないとは言わないし、似合っていないわけではないからぎりぎり我慢してやっていたが。今回は話が別だ。
別に美食屋家業をやっていない時ですらあれを着る必要性は一つも無いだろう。あの服の目的を考えれば、別に、本当に、いらない筈だ。
それでも着ているっていうんだから理由は一つしか考えられない。んで、その理由が気にくわなかった。ありえねぇ。
うんざりしたような目で建物を見つめるこいつにムカついたので話しかけた。

「お前さ、まぁだあの服着て無いと不安な訳?」
「あの服って?」
「わかってんだろだっさいお前の服だよ。まだ毒コントロールできねぇの?」
「それは勿論日常生活では問題ないけれど、万が一があるだろう」
「へーへ。せいぜいそうーやって自分の影に怯えてろよ自己中」
「いや、僕が自己中心的なのは否定しないけれど、服と自己中って関係あるか?」
「万が一だっつーんなら、俺の触角が暴走する可能性だって万が一だろうが」
「それとこれとは話が」
「がわねーよだから自己中だって言ってんの」

俺の発言にうろたえたこいつを見て溜息をつく。珍しくココの顔には苦笑が浮かんでいなかった。少しは堪えたらしい。ちょっとは考えろ。
こいつを優しいと形容した奴はすべからく人を見る目が無い。優しい?優しい?よりにもよってこいつが?
優しいっつーのは他人のために動ける奴だが、他人を理由にしない奴だ。自分のための行動が他人のためになる奴だ。
その点で松あたりはまあ、良くできた奴だと思う。臆病という言葉の意味を考え直したくらいだ。
松のことをなんと形容すれば最も美しく調和するのか俺はいまだ見付けられていないので、何か言葉にするつもりは今のところ無いのだけれども。
この馬鹿な男は、無駄に知識だけためこんだこの馬鹿な男は、きっと丁度いい言葉を知っているのだろう。しかし尋ねるつもりにはならなかった。
こいつは一つも優しくない。一つとして優しくない。こいつは他人のために動くために他人を理由にするような奴だ。
自分のために動けないようなやつは自分を大切にしない。自分を大切にしようとしている奴らの存在を全て無視してるってんだから、自己中以外の何物でもないだろう。
他人を背負うと言う事はひたすらに重いことだ。それを放棄して逃げてるのと同じだって、なんで気付かねんだろな。

「オーケイ。判った。サニー」
「何がだよ」
「休憩しよう」
「いいぜ。その後でそこの店行くかんな」
「結局行くんだね?」
「たりめーだろーが」

いいよ、それじゃあ休憩無しで一気に行こう。諦めたように一歩踏み出したこいつからは覚悟が見える。なんで服買うのにんな覚悟が必要なんだか俺には判らない。
試着を頑なに嫌がるし店員に話しかけられるのも嫌がる。買い物を楽しむつもりが無いらしい。なんなんだいったい。
何をそんなに厭うんだか。美しいものに囲まれている瞬間のあの至福をこいつは知らないのだろうか。
説教しようとしたら、こいつは一瞬真顔になった。かと思えば、俺になにも言わずに荷物を置いて早足で歩き出す。
呼び止めようとしたが、そういや前にもこんなことあったなあと思ってそのまま放置して見守ることにした。なんとなく予想はついている。
こいつは今までにない確かな足取りで五十メーター程先の少年に近づいて行く。俺は別に視力が良くないのでよく見えないが、少年が何かを落としたらしい。
落とした、というか落とした瞬間にあいつが掴んでいたから地面にはついていなかったが。そのまま気がつかないで去ろうとする少年に声をかけた。ようだ。恐らく。
そのまま二言三言会話して戻ってくる。飴貰っちゃった、とだけ言って笑うこいつは今の出来事についてそれ以上話すつもりがないらしい。

「お前はいったい、何見て生きてるわけ?」
「え?」
「鈍いんだか鋭いんだか、全部見てんだか何も見て無いんだか」

困ったような笑顔を向けられて、俺はまたイライラする。こいつの今の行動が優しいかって?そりゃ、断然優しいんだろう。
見ず知らずの少年のために動いたこいつは圧倒的に優しいんだろう。優しいという言葉はこいつによく似合う。だけどこいつは優しくなんてないのだ。
こいつを優しいとしか形容出来ない奴は馬鹿だ。だから俺も馬鹿ってことになる。糞。だけど俺は知ってるんだ、こいつは優しくなんて無い。
こいつに調和する言葉がさっぱり見つからない。俺の苛立ちをよそに、こいつは更に苛立たせるようなことを言ってくる。

「僕は、僕が見ている物しか見てないよ」
「自覚してれば良いと思うんじゃねーし。だったら他の奴が見てるもん見れるよーに努力しろよ」
「耳が痛いな」
「痛いだけか」

じゃあ、サニーの目にはどういう風に映っているんだい?
そのどうしようもなく救いようのない台詞に応えてやる気になったのは、気まぐれというのもあるし、そして何より呆れ果ててしまったんだと思う。
それをきくかね。普通。それを他人に聞いちまうかね。俺の感覚からすりゃありえないんだが。

「例えばさっきのお前のセンス無い台詞な」
「どれかな」
「蜘蛛の子だよ。マジあの美しいアクセをそう例えるのはありえんかった」
「ごめんごめん。悪かったって」
「上っ面で謝んなマジで。けど、宝石と蜘蛛は似合う」
「え?」
「蜘蛛の腹は宝石に見える。腹がルビーだったりオパールだったりエメラルドだったりして、それを限りなく透明な黒曜石で包んだ蜘蛛はつくしい。
んで、足は銀だ。細い細い足がいい。吐き出す糸も銀が良。細い細い細い強靭な銀糸が良。んで完成した巣は芸術に近いと思う。
れに雨が降り注いでくっついた水滴が、その銀を反射して煌めくのが天然の宝石みたいでまた良」
「そんな蜘蛛も光景も見たことはないな」
「そりゃ、お前の眼が節穴だからだ」

全く俺の言っていることを理解していないらしいこいつに、俺は少し憐れみすら覚える。難しいことなんざ言ってね筈なのに。
俺よりもはるかに頭が良い筈のこいつはこんな単純なことすら理解しない。
本当はこんな会話投げ出したって全然構わないんだが、あんまりにもこいつが哀れなので俺はやっぱりちゃんと説明してやる事にする。
道端に生えているあそこのタンポポ。

「そこに生えてるタンポポの葉は分厚いレースだ。荒編みの太目の毛糸。綿毛は砂糖。
あの下品な大食い食いしん坊にしか判らないような微かで誰にも届かないような香りで世界の空気を柔らかくしてる」

「そこの植え込みの緑は、葉っぱの一つ一つのそれぞれの半分が太陽。葉脈の左右で分かれてる。右半分葉っぱ。左が太陽。自分で輝いて呼吸してる」

「この足元の煉瓦は光る石を内側に持った粉だ。その上を歩けば歩くほど削れて粉の中に見えない光の粒子が含まれてる」

「そこに生えてる苔は緑のベルベット。滑らかで手に吸いつく」

「あそこの家に絡んでる蔦は、蔓がバネで出来てる階段だ」

目に見えているもの全て、片っ端から話していけば、恐ろしく鈍いこいつでも俺の言いたいことを理解したらしい。
俺の発言に思いっきり笑いながら、今までで一番泣き出しそうな顔で、毒を吐いてきた。

「お前は、本当にロマンチストだね」
「お前には見えねーのかよ」
「ああ。僕には見えない。本当に残念ながら」
「そ。俺もお前が見てる世界なんて知ったこっちゃね」

神様とかいうやつがもしもいるのなら、あんまりにもこいつが鈍いから、こいつにとびっきりの眼を与えたんだろう。頭悪ぃ。
なんで、こんな、全然優しくも無い、他人のためにばかり動くような奴にそんな目を与えちまったんだか。それがなければこいつはきっともっと平穏に過ごせたのに。
なんで、こんな、大馬鹿の癖に頭が良いこいつにそんな目を与えちまったんだか。それが無ければこいつは未来なんて見えなくて済んだっつーのに。
頭が良いくせに馬鹿で、優しくない癖に他人のために生きるから、こいつの眼には大事な物が全然映らない。
くっそ。なんか考えてる事が支離滅裂だ。ただ訳判んないのは俺では無くて、間違いなくこいつなんだ。こいつがこいつと調和していないのが悪い。
おかしいだろ。おかしいだろ。むかつくくらい美しい行動して完璧な演出をするくせになんでこいつは生き方の一つ一つが不器用なんだ?
なんで美しいものに手を伸ばさない?なんで自ら美しくなろうとしない?美しい物の手伝いだけで満足か?馬鹿か?
美しいものは人を選ぶ。俺が買ってやった紙袋の小さな山を見る。俺が選んでやった美しい美しい品々。

「性格的にキモいお前が何考えてんのかなんて知ったこっちゃねぇけどよ」
「酷くないか?」
「お前は、こういうのが似合うわけよ。似合うんだから、美しい物を着る義務がある。
美しいものに選ばれてんだからお前はそれを自信をもってきなきゃなんねーわけ。お前の態度は美に対する冒涜だし」

特に反論は返ってこなかったが、その表情は如実に、何言ってんだこいつ、と思っているであろうことを伝えてきた。
既にさっきの店を出てから結構な時間が経過している。その間ずっと立ち話してたわけだが、これならどっか入って休憩しててもよかったかもしれない。
陽射しは眩しい。行き交う人々は幸せそうだ。空は青い。こいつは馬鹿だ。
なんでわかんねーかな。食材で例えれば判るのか?それこそあの食い意地の張った奴らでもあるまいし。
ああ、それともあれか?こいつは理解できないんじゃなくて不満なのか?美しくある義務が存在していることが?

「好きでその顔に生まれてきたんじゃねって?」
「いや、別にそんなことを言うつもりは」
「そのとーり。お前は好きでその顔に生まれてきたわけじゃねーし」
「そこは肯定するんだね」
「好きでんなきもい毒に耐えられるような身体に生まれてきたわけでもねーし」
「…」
「俺だって、好きでこんなにもビューティーで完璧な人間にうまれてきたわけじゃねーし?」
「はいはい」
「好きでこんな風に生まれてきた訳じゃねーんだから、生まれた後くらいは好きに生きていーんだよ」
「その理論もどうかと思うぞ」
「そ?好き勝手に生きるってのは当たり前だろ。好き勝手に生きてんだから全部自己責任だ。その責任を全部背負ってこそ美しい」
「お前は好き勝手すぎないか?」
「好き勝手ついでに言うけど、マジお前その服致命的にダサいからな」
「それ、ここに来るまでに何回も聞いたよ」
「あそこの店でメインの物いくつか買うからもうそれで着替えろ」
「その場でかい?それはちょっと」
「んなダサい奴と一緒に歩くのが苦痛なんだよ」
「ちょっと傷ついたぞ」
「ちょっとだろ。俺はもう相当傷ついてる」
「え、嘘」

その言葉には答えずに俺は目当ての建物に向かって歩き出した。ちょっと待てよと慌ててついてくる足音。はん、ざまみろ。悩め悩め考えろ。
馬鹿だ。馬鹿だ。こいつは超ド級に輪をかけて馬鹿だ。救いようのないアホだ。優しくも無いセンスも最低なイイトコなしの糞野郎だ。
どうせ、どんなに俺がこいつに似合う美しい物を買ってやっても、こいつは素知らぬ顔で、また明日からあのだっさいバトルスーツを着るんだろう。
万が一があったらいけないからね。僕が好き勝手に生きる責任の取り方がこれさ。そんな台詞をぬけぬけと吐くんだろう。
馬鹿だ。馬鹿だ。本当に馬鹿だ。こいつはそんな自分を一つも反省しないんだろう。変えるつもりもないんだろう。だったら謝るなよマジで。

「サニー」
「…」
「サニー」
「んだよ」
「ありがとう」
「何が」
「綺麗な物が似合うって言ってくれて、さ」
「あ?」
「正直、何言ってんだこいつって思ったけど」
「おい」
「慰めてくれたんだろ?」
「お前、致命的に馬鹿だな」
「違うの?」
「慰めてんじゃなくて事実を言ってんの。別にお前の事慰めたくなんて無かったし」
「それはそれで酷くないか?」
「アホ。今特大に褒めたろーが」

言いたかったことが伝わってる気がしねーんだけども、向けられた笑顔が苦笑ではなく本当に明るい物だったのでまあ寛大な俺は許してやることにした。
磨けば輝く物を磨かないのは、そりゃ、怠慢っていうもんだ。俺はそれをちゃんと知っている。
俺の美しい世界だ。美しい美しい世界で、どうしようもない愛すべき友人が自らどぶの中に入って閉じこもるのをどうしてそのままにしておけるだろう。



***



「これ、を」
「あ?」
「この建物を作った人を知っているかい?サニー」
「勿論。超有名なデザイナーだよ。の前死んだけどな。それが?」
「紫外線、が」
「あ?」
「紫外線だけじゃない、色んな非可視光線が、全部乱反射してる」
「意味わかんね」
「乱反射してるのに秩序立ってるんだよ。あるべき所に降り注いでる」
「お前には見えてんの?」
「僕じゃないと見えないだろう。いや、これを作ってた人は見えたのか?」
「言っとくけど、これ建てた奴極度の弱視だからな」
「じゃあ、これは、偶然なのか?」
「さあ。俺には見えないし」
「本当に、本当に綺麗なんだよ。黄金の銀河の中にいるようで」
「や、俺見えねーし。どんな感じなんだよ」
「そうだね」

「夢みたいだ」

その言葉に俺は納得することにする。夢のような光の柱。きらめき。粉。カーテン。頭に浮かべた美しい光景。
俺が知らない美しい物を、こいつは確かに知っている筈なのだ。そのことにまだ気がつかないとしたら、もう救いようのない大馬鹿野郎。ぶっとばしてやる。

のん様リクエスト「トリコで無茶苦茶KYなサニーと、それに不思議と上手い具合に助けられる心配性で気遣い性なココさんの話」でした。
この作品はのん様のみお持ち帰り可とさせていただきます。リクエストありがとうございました!


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