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トリココあるある

掴まれた腕がミシミシと、およそ腕が立てるべきではない音を奏でている。もうちょっとしたら折れるだろうか。罅が入って終わるかな。
歩き去ろうとした僕を引きとめた腕は何も発しない。無言のまま睨みつけてくる。どうやら、かなり怒らせたらしい。
まあ、怒らせようと思って言った台詞だったのだから別に構わないというか、予想通りというか。

「トリコ」
「…………」
「離してくれ。僕の腕を折る気か」

無機質に放った台詞に、返事はやはり来ない。どうしようかと考えあぐねて視線を宙にさまよわせた。
本当は、出ていけと、そう吠えられて消える予定だったのに。こんな時に外れる占い。僕らしい。
この部屋の中で、彼はただ黙って僕の腕を掴む。そこからじわじわと漏れ出してくる彼の体温は思っていたよりも普通で、ぬるかった。
炎のように燃えて、触れた途端に焼けてしまうと思っていたのだけれど、僕とたいして変わらない、普通の、人間の温度。

「離したら」

沈黙を破った獣の唸り声のような声は、それでも僕の耳に届いた。聞きなれた彼の声は欠けることなく僕のもとに届く。
この部屋の中に、人の言葉を喋る獣が一人。さて僕は獣なのだろうか人間なのだろうかと、全く関係ない事を思うのは現実逃避という奴だろうか。
まあ、逃避するも何も、僕の現実は既に決まっている。敷かれたレールの上を走る事が決まっているんだから、意識くらい逸らしたっていいだろう。
走っていく。僕は。誰かに敷かれたレールの上を自分の意思で。走って走って駆け抜ければ草原を渡る獣になれるだろうか。僕は。
無機質な僕は命を持てるだろうか。

「離したら、お前は、どっかに消えるだろうが」

だから、お前の腕が折れようが、離すつもりはねぇぞ。そう続けた彼の唸り声は悲鳴に近かった。
優しい優しい僕の獣。別にそれでも構わないけれど、折れたら僕はその腕を引きちぎって行くよ。

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