And But Cause I love you


[ν]-εγλ 0001/10/25 16:58:02あるいは空白

君は知らない



***



サーの大爆笑を見よう、というザックスの言葉はとても魅力的だった訳で。
謀らずも俺の一言で、見ることができた訳ですが。
訳ですが。
今。この瞬間。
ちょ、ちょっと待って、ホント、笑い、止まらな……!

何やってんだよ俺達は落ち着こうぜ、
と言って顔をあげては目があって、条件反射で笑いだすということを延々と、それはもう延々とやり続けている。
い、息が苦しい……。

「………い、あ、は、つ、疲れたぁ………」
「ざ、ザックス、会議、は……?」
「後20分だ……支度しろ、ザックス。」

全員が息も絶え絶え。ほうほうのてい。満身創痍だった。それでもまだ気をぬくと笑ってしまいそうだ。なんだろうこの充実感と一抹の侘しさ………。

「り、了解したぜ、セフィロスの旦那……」
「だ、旦那ってことは、ザックスが奥さん?」
「ブフッ。気持ち悪いなそれっ。よし、セフィ、くく、ご、ご飯にする?お風呂にする?そ、それとも、わ、くくくっ」
「っ……くく、最後まで言え……!」
「そ、だよ、ザックス、言い切るん、だろ……!」
「白魚のような君の瞳に乾杯★」
「そ、れは、く、くくっ、ただの死んだ魚の目だ……!」
「あ、そっか、ぶ、はははははっ」

駄目だこれ。止まらない。
でも止まらないのは時間も同じだった。時計は確実に進んでる。
今この時ほど、時間を無駄に、確実に浪費してる時は無いんじゃないかな……。

「ザッ、クス、ほんと、もう、時間……!」
「お、う、行ってくる!」

ヒーヒー言いながらも、なんとかドアを開けて出ていくザックス。ってしまった。

「…………っ、…………」

これじゃサーと二人っきりだ。
どうして今ザックスと出て行かなかったんだろう。じゃあ俺も失礼しますね、の一言を逃した。
サーの笑いもそろそろ納まったらしく、少しだけ大きな呼吸の音が聞こえる。
………ザックスがいなくなるだけでここまで静かになるものなのか!
なんというか、やはり壁を感じる。だけどあんだけ笑いあった後に壁もへったくれもないような………。
いややっぱり気まずい!!
多少タイミングがずれててもいい、帰ろう!

「で、では、俺も失礼します。サー・セフィロス。」
「…………今更“サー”等つけなくて構わんぞ。」
「ほ、本当に失礼いたしました!」

そりゃ怒るだろう。下っぱの下っぱがあんだけ大笑いしてしまったんだ。っていうか本当、数秒前の自分恐れ知らずだったんだなぁ!
まさかの勇者はザックスじゃなくて自分だった。無謀にも程がある。

「ああ、そうじゃない。こういう時はなんと言うのだったかな………。」
「…………?」
「怯えるな、違う、固まるな、いや……」

さっきの名残だろうか。いつになく饒舌なサーはぶつぶつと何か考えている。判決を待つ虜囚ってこんな気分なのかな。
クラウド・ストライフ、お前を爆笑罪で減俸に処す………駄目だ、俺の頭も変な方向に向かってる。

「畏まるな、だ」
「………へ?」
「今更だと言っただろう。オレも、あの姿を見られて今まで通りにされても逆に対応に困る」
「あ、ああ………」
「だから“サー”なんぞ付けなくていい」
「え……」

そう言われたって他にどう呼べばいいんだろう。普通にサーを取ったら……セフィロス?呼び捨て?!無理無理無理!!勇者クラウドもそこまで命は捨ててない。
でもこれでサーって呼び続けるのも逆に嫌がらせみたいになっちゃうんだろうか。

「じ、じゃあ……セフィロス、さん……?」
「………お前はザックスの友達という割には謙虚だな」
「えっと、それはどういう……」

頬杖をついて、ため息をつくサー。じゃない、セフィロスさん。
まるで、自明のことを思い出すフリをしてるくらいにわざとらしかった。
どうでもよくないのにどうでもいいんだよ、みたいな。
自分ホントあれは呆れたよ、っていうそぶりしながら、実は全然気にしてない、みたいな。

「今でも覚えているぞ。アンジールに頼まれて、渋々2ndの、言うまでもなくあいつだが、世話を頼まれた時だ。初対面であいつはこう言った。『サー・セフィロス、ご指導よろしくお願いします』」
「凄い普通ですね」
「『でもなんか、アンジールにはタメ口でサーには敬語っていうのも微妙だからセフィロスって呼んじゃっていい?』」
「…………変ですね。」

っていうかアウトだよザックス!
一瞬でも自分を勇者だと思ったのは間違いだった。勝てない。勝ちたくない。彼を越える勇気を手にした瞬間に魔王にやられる気がする。

「なんというか、そんな奴の友達だというから、似たようなのを想像していたんだが。」
「全然違います……」
「ああ、そうだな。」

さっきまでと打って変わって、英雄は静かに微笑んだ。レベル1。
多分それは俺に向けてじゃなかった。ここにはいない彼に向けて。

「クラウド」
「は、はい!」
「礼を言う。」
「は、はい?」
「以前、あいつが任務で大怪我をした時」
「あ……はい」
「隣で立ち尽くすだけだった俺は『回復マテリア持ってるなら早く使って下さい!あんた見殺しにする気ですか!』と叱り飛ばされた」
「………!!!」
「お前だろう?」

な、なんでばれてるんだ!!
冷や汗ダラダラだ。マスク被ってたから平気だと思ってたのに!!それにあの時、セフィロスさんはまだ俺の名前も知らなかった。声でばれる筈もない。後から誰かに聞いたのか?

「ザックスが言っていた」

勇者はあっけなく一般兵を巻き込んでいやがった。ちょ、ザックス……!!そこは黙っててくれよ!!空気を読んでくれよ!!そんなに読みにくい状況だったっていうのか?!

「ほ、本当に申し訳ありませんでした!!」
「まさか一般兵にあんた呼ばわりされるとはな」
「す、すいませんすい」
「ほら、やっぱり似ているじゃないか」

セフィロスさんは俺を見てくすりと笑った。レベル2。初めて見た。………今のは俺に向けられていたんだろうか。

「あれはあんた呼ばわりされても仕方ない……いや、もっと怒鳴られてもおかしくない状況だった。それにお前に言われなければ、俺は立ち尽くすままだったさ。」
「い、え……」
「礼を言う」

御礼を言われるようなことじゃない。
ただあの時は、無力な自分が悔しかった。何もできない自分が悔しかった。
だから、力があるのに使わなかったセフィロスさんに八つ当たりしただけだ。勢いじゃなきゃあんなこと言えるもんか。
あんな、茫然自失としたセフィロスさんを初めて見た。そんな人に、本当に酷い言葉を投げたと思う。別にセフィロスさんのせいじゃないのに。

「本当は、もう少し前に言うつもりだったんだ」
「え?」
「ザックスの部屋に集まったことがあっただろう。一度だけ。半ば無理矢理。」
「あ、ああ、俺の入隊一周年記念やってくれるとか言って」
「オレは、行くつもりはなかったんだが」

そりゃそうだ。貴重な休日を、どうして関係ない一般兵の為に使おうとするだろう。知り合いですら無いんだ。俺が一方的に知ってるってだけで。

「あの時、オレを叱り付けた奴だと聞いてな」
「う……」
「………礼を言おうと思って行ったんだ、が……なんだ、タイミングが掴めなくてな。」

覚えている。覚えている。確かに少しだけ会話したけれど、そのあとはひたすら二人でザックスへのツッコミに追われていたような………。
しかもそのあとザックスはセフィロスさんを怒らせて、ワイン瓶で八刀一閃をくらっていたりなんだり、最終的に俺とザックスが酔い潰れたりして次の日二日酔いで死にかけたり。
………そういえばあの時、セフィロスさんも潰れてたんだろうか………。俺が一番最初に沈没して、起きた時にはザックスしかいなかったから判らないけど。
あの時、初めて、普段のセフィロスさんを垣間見た。それは多分、ザックスっていう窓を通じて、なんだけど。
覚えている。覚えている。忘れられる筈もない。
よく知りもしない俺なんかの為に来てくれたっていうの以上に、俺が初めてセフィロスさんの微笑みレベル1を見たのはこの時なんだから。

「………あの時は、サ……セフィロスさんがこんな気さくな方だとは知りませんでした」
「…………気さく?オレが?」
「え、だって、あんなに大笑いしても怒られないし、今だってこんなに沢山話して下さって……」
「沢山?話す?」

物凄く中途半端な顔でセフィロスさんは俺を見る。これはどういうことなんだろう。俺なんか変なこと言っちゃったかな?
慌てる俺を余所にセフィロスさんは考えこんでいた。

「………脳天気が、移ったかな……」
「はい?」
「こっちの話だ。………しかしクラウド、お前将来大物になるかもな。」
「ええ?」
「オレを相手に、ここまで物おじしない奴は久々だ。………まぁ、ザックスには、負けるが」
「勝てるとも勝ちたいとも思いませんよ………。」

さっきも思ったけど。命が何個あっても足りやしない。
…………というか、俺は十分ビクビクしているというか、自分で言うのもなんだけれど人見知りは激しい筈だ。
物おじしてないように見えるというのなら、それは

「………ザックスのおかげですよ。」
「………」
「セフィロスさんと、初めてちゃんと会話した時、ザックスがいたから、俺は少しだけ普通に話せたんです。」

勿論今回も。
ザックスが居なきゃこんなことできる筈がない。それは多分、セフィロスさんの方も一緒だった。

「………出入り口、というか、窓、というか」
「窓は良いな」
「それに、なんか、色々、カレーにココアパウダー入れたとかいう話も聞きましたし」
「………………あいつはそんなことまで………」

気のせいか一瞬殺気がした。多分気のせいじゃないんだろうな………。
しかし言うつもりなかったんだけど、つい言ってしまった。ゴメンザックス。後で怒られるかも。

「…………そんなことを言うならあいつだって、氷の上でジャンプして池に落ちたり、大蛇の尻尾踏んで追い掛けられたり石と間違えてマテリア投げたり色々としでかしているんだがな」
「……あはは」

………………わざと、なんだろうなぁセフィロスさん。なんというか、腹いせ?謀らずも二人の失敗談を聞くことになって、少し面白い。
英雄も仕返しをする、というのは、人間くさくて親近感だ。

「………では、オレも会議があるのでな。悪いが失礼しよう」
「あ、は、はい。すいません。」
「謝る所ではないだろう。」

静かに立ち上がるセフィロスさんに焦りを感じる。何か、何か言わなきゃいけないことがあった気がする。
言いたかったことがあった気がする。
今を逃したら、多分、もう、言えない。
今度こそ、タイミングを逃す訳にはいかなかった。

「あ、あの、ありがとうございました!」
「……?礼を言う所でも無いだろう。」
「あの時、俺じゃあザックスを助けられなかった。セフィロスさんがいなかったら、多分ザックスは死んでたんです。」

少しだけ目を見張って、セフィロスさんはオレを見る。驚いた、んだろうか。
笑ったり、怒ったり、落ち込んだり、驚いたり、
英雄である前に人間なんだっていうことを知れたのは全部彼のおかげだった。

「だから、ありがとうございます。ザックスを、俺の大事な友達を助けてくれて。」
「友達、か。」
「セフィロスさんとザックスだってそうでしょう?」
「……友達?友達なのか?」
「え?」

まさかここで質問がくるとは思ってなかった。それ、俺に聞くことなのか?確実に違うよな?
順接でも逆説でも飛躍でもない疑問に、俺は対処できない。

「そうだな。俺とあいつはどういう関係なんだろうな。」
「え……え?」
「ああ、さっきのお前の言葉、窓、だったか、あれはよかったな」
「え、ええええ?」
「あいつの隣は呼吸がしやすい」

セフィロスさんは、言葉もなく立ち尽くす俺を見て少しだけ首を傾げる。「ではな」と一言残して部屋を出ていった。
一人残される俺、みたいな。

「………セフィロスさん、それじゃ、夫婦ですよ」

小さく呟く。笑みがこぼれる。部屋を出る。時計の針は確実に進んでいた。
あとどれくらいで、彼の会議は終わるだろうか。



***



ありふれたある日の特別な25分
そこに君はいなかった
僕ももう忘れてしまった



(失われた日々を失ったとも気がつかない)

[ν]-εγλ 0001/10/25 15:55:58の空白時間の話でした。

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